搾取(読み)サクシュ(英語表記)exploitation 英語

デジタル大辞泉 「搾取」の意味・読み・例文・類語

さく‐しゅ【搾取】

[名](スル)
乳などをしぼりとること。
階級社会で、生産手段所有者が生産手段を持たない直接生産者を必要労働時間以上に働かせ、そこから発生する剰余労働の生産物を無償で取得すること。→剰余価値
[類語]詐取ピンはね

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精選版 日本国語大辞典 「搾取」の意味・読み・例文・類語

さく‐しゅ【搾取】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 乳、草木の汁などをしぼりとること。
    1. [初出の実例]「搾取其汁、濾過極清澄」(出典植学啓原(1833)三)
  3. ( [英語] exploitation訳語 ) 階級社会で、生産手段の所有者が直接生産者をその生活維持に必要な労働時間以上に働かせ、その労働生産物や成果を剰余価値として取得すること。転じて、一般的に、乏しいものを無理にとること。
    1. [初出の実例]「永き搾取に悩みたる 無産の民よけっきせよ」(出典:聞け万国の労働者(1922)〈大場勇〉)

搾取の語誌

( 1 )「搾(しぼ)り取(と)る」を音読して生じた和製漢語と考えられる。挙例の「植学啓原」に見られるような文字通りの具体的な動作を表わす用法は、あまり一般的ではなかったらしく、明治から昭和初期にかけての主要な国語辞書(「日本大辞書」「大日本国語辞典」「大言海」など)に採録されていない。
( 2 )の exploitation の訳語としては、「共産党宣言」の明治三七年(一九〇四)訳では、「駆使」「虐使」が当てられていたが、大正十年(一九二一)の堺利彦訳から「搾取」が用いられ、以後労働運動の文献プロレタリア文学作品などで多用されるようになり、一般化した。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「搾取」の意味・わかりやすい解説

搾取
さくしゅ
exploitation 英語
Ausbeutung ドイツ語

一般的には雇い主等が労働者等を低賃金で使用し、不当な利益を搾り取るなどの行為をさすが、搾取を階級社会の基本的な経済関係を意味するものとして厳密に分析し、いっさいの不労所得発生の源泉と規定し、経済学上の一大概念としたのは、K・マルクスである。すなわち、階級社会においては、基本的な生産手段を所有する支配階級が、非所有の直接生産者を、その生活の維持に必要な労働以上に働かせ、そこから発生する剰余労働の生産物を、その生産に要した諸費用の増加分、つまり剰余価値(物)として領有する。搾取とは、この剰余価値(物)の創出と取得の方法をいう。

 搾取が行われるためには、第一に、基本的な生産手段の所有者と非所有者という階級関係が存在していること、第二に、直接生産者の生産諸力が、自分とその家族の生活維持に要する以上の生産物を生産できるほどに高まっていること、が前提となる。したがって、生産諸力が低く、階級関係もみられなかった原始共同体社会や、生産手段の階級的所有と階級対立が廃絶される共産主義社会では、搾取関係は存在しないとされる。

 マルクス経済学では、搾取の形態を次の三つに大別する。すなわち、(1)奴隷制社会での奴隷所有者による奴隷の全人格的支配をてことする全労働生産物の領有という粗暴な搾取形態、(2)封建制社会での封建領主による農奴に対する武力や土地占取といった経済外的強制を媒介とした年貢や賦役、諸課税の賦課などの封建的搾取、(3)そして資本制社会での資本所有者による賃金労働者の剰余労働の資本利潤としての取得という賃労働搾取、の三つである。とくに商品経済を基盤とする資本制社会は、普遍的な生産手段たる資本を集中所有する資本家階級と、自己の労働力以外になんらの生産=生活手段をもたない賃金労働者階級との階級対立関係にあり、賃金労働者は労働力市場で、たとえその労働力の価値に等しい賃金を受け取るとしても、実際の労働によって生産される価値は、賃金以上の剰余生産物すなわち剰余価値を含んでいる。資本家は、この剰余価値を、支出した資本価値の増殖分つまり資本利潤として取得し、またこの剰余価値は、企業者利得、商業利潤、利子、地代などいっさいの資本制的不労所得の源泉となる。

 ところで、賃金に等しい必要労働と剰余労働との割合を搾取率とよぶが、他の条件を一定とすると、絶対労働時間の短縮や賃金水準の上昇は搾取率を小さくする。ここに資本制社会下での労働諸法制や労働組合運動などの果たす基本的な意義がある。

[吉家清次]

『富塚良三他編『資本論体系』全10巻(1984~2001・有斐閣)』『K・マルクス著『賃労働と資本』(長谷部文雄訳・岩波文庫/村田陽一訳・大月書店・国民文庫)』『K・マルクス著『資本論』(向坂逸郎訳・岩波文庫/岡崎次郎訳・大月書店・国民文庫)』

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改訂新版 世界大百科事典 「搾取」の意味・わかりやすい解説

搾取 (さくしゅ)

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普及版 字通 「搾取」の読み・字形・画数・意味

【搾取】さくしゆ

力で利得する。

字通「搾」の項目を見る

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世界大百科事典(旧版)内の搾取の言及

【価値】より

J.R.ヒックスは,公正賃金fair wageという概念にもとづくことによって,市場価格が人々の“価格に関する価値観”によっていかに左右されるかを論じている。 マルクスは,労働価値説という大いに疑わしい仮説に依拠して資本家の獲得する剰余価値や労働者の被る搾取を説明したのであったが,社会的価値の考え方にもとづけば,剰余価値や搾取に対して別様の解釈を下すことができる。すなわち,市場賃金と社会的価値としての公正賃金との乖離(かいり)としてそれらを説明することができるであろう。…

【資本主義】より

…資本主義が一つの社会的再生産の体制として存続していくためには,どの資本も正常に活動するかぎり剰余価値を手に入れられなければならない。マルクスの論点は,この剰余価値獲得の根拠を資本家による賃労働者の搾取に見いだしたことにある。 どのような社会でも労働者は全体として労働者自身で使用し消費する以上のものを生産する。…

【資本論】より


【第1巻の構成】
 第1~2編で,商品→貨幣→資本のカテゴリーの展開を後づけ,とくに商品の章で〈労働の二重性〉に基づくマルクス特有の労働価値説と〈価値形態〉論とを提示し,やがて〈労働力の売買〉を媒介に第3編以下の生産過程の分析に入っていく。第3編では,1日の労働時間(労働日)における〈価値および剰余価値〉の形成と,剰余価値の〈不払労働の搾取〉としての取得を,第4~6編では,資本制生産方法の展開と,その結果としての賃金のカテゴリーを,第7編では,資本の蓄積が,賃金と剰余価値の運動にもたらす効果と,労働者階級の運命に与える影響を扱っている。
[価値形態と労働の二重性の問題――第1編]
 第1章〈商品〉の分析で,独自の〈労働の二重性〉の規定から労働価値説を基礎づけ,また商品の使用価値と価値(交換価値の内実)の2要因の関係を論理的に記述し,商品を商品として表しまた運動させる価格と貨幣を導き出そうとするところの〈価値形態〉論を展開している。…

【剰余価値】より

…この商品売買という姿をとった階級関係とはどのようなものか。
[剰余価値と剰余労働の関係,搾取]
 1日8時間でも12時間でも働けるし,どのような種類の労働でもできるという,普通の人間のもっている労働能力をめぐって,資本家はこの労働能力の購入者となり,労働者は販売者となる。この両者間で売買される労働能力を労働力商品という。…

※「搾取」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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