日本大百科全書(ニッポニカ) 「トラッキングシステム」の意味・わかりやすい解説
トラッキングシステム
とらっきんぐしすてむ
tracking system
スポーツにおける移動物体の追跡技術の一つ。おもに球技において、選手個別の動作やボールの軌跡を追跡・記録・分析するためのシステムである。画像センサーやコンピュータ技術の進歩により、緻密(ちみつ)な追跡結果が競技データとして収集されるため、審判の判定を支援したり、選手の身体能力や技術的特徴を見極めたりすることができ、ひいては監督の采配(さいはい)や選手のコーチング、ゲームの解説などにも広く役だてることが可能である。アメリカの大リーグでは、トラッキングシステムに蓄積されたデータや分析結果を、選手の契約内容を決定する際に利用するようにもなっている。
代表的なトラッキングシステムとしては、(1)競技場に取りつけた数台の特殊カメラで撮影した画像や映像を解析する方法、(2)選手やボールに取りつけたセンサーにより、磁場の変化や全地球測位システム(GPS)から得られる空間データによって測定する方法、の2種類が使われている。とくに(1)は、カメラの画質の向上により、顔認識やシーン判別などが自動で瞬時に解析できるようになっており、追跡能力が目覚ましく進歩している。
たとえば、テニスのATPツアーでは、チャレンジとよばれるライン判定ルールが採用されている。これは競技中の選手が主審の下したライン判定に対して再判定を求めた場合、トラッキングシステムで撮影された映像をもとに、瞬時にボールの軌道を分析し、コンピュータ・グラフィクスによって落下点を表示することができるものである。また、サッカーやラグビーなどのチーム競技では、競技中の選手や審判、ボールのすべての動きを、試合を撮影した映像から追跡し、リアルタイムでデータ化することが可能になっている。日本のJリーグでは、2015年(平成27)よりサッカー専用トラッキングシステムのトラキャブTracabを運用している。該当するスタジアムで行われる試合では、ボールや審判の動きに加え、各選手の走行距離や加速度、トップスピード、スプリント回数などの詳細なデータが得られる。
[編集部]