日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
コンピュータ・グラフィクス
こんぴゅーたぐらふぃくす
computer graphics
コンピュータを使って絵や図形を描かせること。図形処理とよばれることもある。略してCG(しーじー)ともよぶ。コンピュータに計算結果を図形として表示させ、それを見てすぐに条件を変えて別の計算をさせるというような、対話形式で仕事を進めるグラフィクシステムは、サザランドI. E. Sutherland(アメリカ、マサチューセッツ工科大学)のスケッチパッド・システムSketchpad system(1962)が最初である。その後、コンピュータ・グラフィクスは大きな可能性は認められながらも、使用する装置が高価であること、プログラム作成上むずかしい問題が多いことなどの理由で普及が遅れていた。1970年代後半になってディスプレー装置の価格が低下し、プログラム作成上の諸問題も解決され、爆発的に広まった。
[大野義夫]
応用分野
人間とコンピュータとの情報伝達は、当初は文字によって行われた。しかし、図形は文字に比べると、大量の情報を高速で伝えられ、直観的に把握しやすいといった利点がある。こうした図形の特徴を生かしてコンピュータを利用するのがコンピュータ・グラフィクスで、次のようなところに使われている。
[大野義夫]
CAD/CAM
複雑な形の部品の設計にコンピュータを利用すると、完成予想図や断面図をディスプレー装置上で見たり、その部品が正しく動作するかどうかのシミュレーションを行いながら、設計を進められる。あとで数値制御機械を使って実際にその部品をつくるためのデータをつくらせることもできる。チップの配線パターンを設計するときにも使われる。
[大野義夫]
建築
設計図、完成予想図、日陰線図をつくらせたり、ディスプレー装置上で部屋や家具の配置を検討する。
[大野義夫]
娯楽・宣伝
コンピュータを利用してアニメーションフィルム作成の労力を減らしたり、SF映画やコマーシャル・フィルムで特殊効果をあげたりする。テレビゲームもコンピュータ・グラフィクスを応用したものである。
[大野義夫]
GUI
コンピュータが行える作業のメニューを画面上にアイコン(図記号)で表示したり、作業の進行状況を図で示したりする。このようにコンピュータと人間とが図を介してデータのやりとりをすることをグラフィカル・ユーザー・インターフェース、略してGUI(ジーユーアイ、あるいはグーイ)という。
[大野義夫]
仮想現実
コンピュータが仮想の世界を図示し、その世界の中の物や登場人物に、人間が直接働きかけることにより、あたかもその世界に入りこんでいるかのような感覚を与えることができる。この感覚を仮想現実感といい、ゲームなどに使われる。
[大野義夫]
プログラム作成上の留意点
このように、コンピュータ・グラフィクスはいろいろの分野で使われているが、図形は本来二次元あるいは三次元のものであるのに対して、それをつくるコンピュータは基本的には一次元的な処理しかできない。このために、コンピュータ・グラフィクスのためのプログラムをつくるときには次のような点を考慮する必要がある。
[大野義夫]
データの構造化
図形をつくる基となるモデルをコンピュータの中につくる必要がある。そのモデルがもつ性質や更新の効率などを考慮して、リスト構造や木構造などを使わなければならないことが多い。
[大野義夫]
入力データとの対応付け
表示面上の絵の一部を人間がライトペンなどで指示したとき、それがモデルのどの部分に対応するのかが識別できるようになっている必要がある。
[大野義夫]
三次元の表現
図形の立体感を出すために、遠くのものを小さく表示したり暗く表示する、右眼・左眼用の絵を別々に表示して立体眼鏡で見る、などのくふうが行われている。
[大野義夫]
隠れ線・隠れ面の消去
手前のものに隠されて見えないはずの線や面を表示しないようにすることで、三次元的な効果を得るために必要な操作である。
[大野義夫]
リアリズムの追求
実物写真のような絵をつくるために、テレビカメラから読み込んだ写真を表示図形の面の上にプリントする、面の上に細かいしわをつけて表示する、そのしわを乱数を使って不規則にする、光線が半透明な物体を通るときの屈折や反射をシミュレートする、などのことも行われている。
[大野義夫]