顔面神経は脳(
また、
しかし、顔面神経麻痺の60~70%は原因不明であり、また脳(中枢)より末梢で麻痺が生じるため、特発性(原因不明の)末梢性顔面神経麻痺、またはこの病気を報告した医師の名前をつけ、ベル麻痺と診断されます。
何らかの原因によって側頭骨内の顔面神経に炎症・浮腫(むくみ)が生じ、顔面神経が側頭骨内で圧迫され血流障害を来し麻痺が起こると推定されています。ベル麻痺の原因はいまだに不明ですが、最近の研究では、単純ヘルペスウイルス1型が麻痺の発症に関係していることが疑われています。
ある日突然に顔の片側が動かなくなり、顔が曲がります。額のしわが寄せられなくなり、眼が閉じにくくなります。また口から食べ物がもれ、頬をふくらませることができなくなります。麻痺は現れてから1週間以内に悪化することもあります。また、耳の後ろやなかの痛みを伴うこともよくあります。
顔面神経は涙の分泌、味覚、大きな音に対する反射にも関係しています。麻痺と同じ側の涙の分泌低下、味覚の低下や物音が響く聴覚過敏になることもあります。
まず、麻痺が末梢性か中枢性かを診断します。中枢性の場合、他の脳症状がみられ、また顔の下半分だけに麻痺が現れ、額がよく動くので見分けられます。末梢性顔面神経麻痺の場合、耳や口腔内などの視診、聴力検査、平衡機能(めまい)検査、ウイルス検査、CTやMRIなどの画像検査などにより、顔面神経麻痺の原因を調べます。
「どんな病気か」で述べた原因となるような病気がなければ、ベル麻痺と診断されます。また、電気生理検査により、どのくらいで麻痺が回復するかを推定することができます。
薬物療法が中心になります。神経の浮腫による側頭骨内での圧迫を除くことを目的として、副腎皮質ステロイド薬を投与することがすすめられています(米国神経学会の治療ガイドライン)。単純ヘルペスウイルス1型が発症に関与していることが疑われており、抗ウイルス薬を投与することも試みられていますが、ヨーロッパで行われた大規模臨床試験の結果では効果が認められませんでした。涙の分泌低下と閉眼不全に対しては点眼薬を用います。
ベル麻痺は治りやすい病気で、麻痺が軽度であれば1~2カ月で完全に治ります。麻痺が高度な(まったく動かない)場合、治癒率は80~90%程度であり、6~12カ月経過して麻痺が残ったり、まぶたと口がいっしょに動く病的共同運動、けいれんやひきつれなどの後遺症を残す症例も少なからずみられます。
片側の顔の動きが悪いことに気づいた時には、早期に耳鼻咽喉科専門医の診察を受けることをすすめます。
古田 康
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…顔面部の運動をつかさどる顔面筋を支配する顔面神経の障害により顔面筋の運動麻痺を生ずる疾患。最も多いのは,一般にベル麻痺Bell’s palsyと呼ばれる特発性顔面神経麻痺で,突然顔の片側の筋肉に弛緩性の麻痺を生じ,眼を閉じようとしても白眼が残ったり,口の片側が垂れ下がってゆがみ,しまりが悪くなるために食物や唾液がもれたりするようになる。また顔面神経に含まれている味覚の神経繊維や,鼓膜張筋支配神経がおかされるため,舌の片側で味がわからなくなったり,片側の耳が音に過敏になったりする。…
※「ベル麻痺」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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