ベル麻痺(読み)ベルマヒ(英語表記)Bell's palsy

デジタル大辞泉 「ベル麻痺」の意味・読み・例文・類語

ベル‐まひ【ベル麻×痺】

Bell's palsy顔面神経麻痺一種。不完全な麻痺で、顔の片側が突然ゆがむ。

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

六訂版 家庭医学大全科 「ベル麻痺」の解説

ベル麻痺
ベルまひ
Bell's palsy
(耳の病気)

どんな病気か

 顔面神経は脳(脳幹部(のうかんぶ))から出たあと、耳の部分の硬い骨(側頭骨)のなかを通り、頬にある耳下腺(じかせん)を貫き、顔の表情をつくる筋肉に分布しています(図25)。そのいずれかの部位で顔面神経が侵されると顔面の麻痺(顔面神経麻痺(がんめんしんけいまひ))が起こります。脳梗塞(のうこうそく)中耳炎、側頭部の外傷耳下腺腫瘍などに顔面神経麻痺を伴うことがあります。

 また、水痘(すいとう)帯状疱疹(たいじょうほうしん)ウイルスみずぼうそうを起こすウイルス)が原因となり顔面神経麻痺が起こる場合があります(ハント症候群)。

 しかし、顔面神経麻痺の60~70%は原因不明であり、また脳(中枢)より末梢で麻痺が生じるため、特発性(原因不明の)末梢性顔面神経麻痺、またはこの病気を報告した医師の名前をつけ、ベル麻痺と診断されます。

原因は何か

 何らかの原因によって側頭骨内の顔面神経に炎症浮腫(むくみ)が生じ、顔面神経が側頭骨内で圧迫され血流障害を来し麻痺が起こると推定されています。ベル麻痺の原因はいまだに不明ですが、最近の研究では、単純ヘルペスウイルス1型が麻痺の発症に関係していることが疑われています。

症状の現れ方

 ある日突然に顔の片側が動かなくなり、顔が曲がります。額のしわが寄せられなくなり、眼が閉じにくくなります。また口から食べ物がもれ、頬をふくらませることができなくなります。麻痺は現れてから1週間以内に悪化することもあります。また、耳の後ろやなかの痛みを伴うこともよくあります。

 顔面神経は涙の分泌味覚、大きな音に対する反射にも関係しています。麻痺と同じ側の涙の分泌低下、味覚の低下や物音が響く聴覚過敏になることもあります。

検査と診断

 まず、麻痺が末梢性か中枢性かを診断します。中枢性の場合、他の脳症状がみられ、また顔の下半分だけに麻痺が現れ、額がよく動くので見分けられます。末梢性顔面神経麻痺の場合、耳や口腔内などの視診聴力検査平衡機能めまい)検査、ウイルス検査、CTMRIなどの画像検査などにより、顔面神経麻痺の原因を調べます。

 「どんな病気か」で述べた原因となるような病気がなければ、ベル麻痺と診断されます。また、電気生理検査により、どのくらいで麻痺が回復するかを推定することができます。

治療の方法

 薬物療法が中心になります。神経の浮腫による側頭骨内での圧迫を除くことを目的として、副腎皮質ステロイド薬を投与することがすすめられています(米国神経学会の治療ガイドライン)。単純ヘルペスウイルス1型が発症に関与していることが疑われており、抗ウイルス薬を投与することも試みられていますが、ヨーロッパで行われた大規模臨床試験の結果では効果が認められませんでした。涙の分泌低下と閉眼不全に対しては点眼薬を用います。

 ベル麻痺は治りやすい病気で、麻痺が軽度であれば1~2カ月で完全に治ります。麻痺が高度な(まったく動かない)場合、治癒率は80~90%程度であり、6~12カ月経過して麻痺が残ったり、まぶたと口がいっしょに動く病的共同運動、けいれんやひきつれなどの後遺症を残す症例も少なからずみられます。

病気に気づいたらどうする

 片側の顔の動きが悪いことに気づいた時には、早期に耳鼻咽喉科専門医の診察を受けることをすすめます。

古田 康


出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ベル麻痺」の意味・わかりやすい解説

ベル麻痺
ベルまひ
Bell's palsy

特発性末梢性顔面神経麻痺をいう。寒冷にさらされたり,感動したあととか,妊娠中に起ることなどもあるが,多くは原因不明なので特発性といわれている。耳後部の疼痛が先行することもあるが,多くは突然片側に起って数時間のうちに明らかな麻痺となり,額にしわが寄らない,眼が完全に閉じない,水が口角からこぼれて飲めない,などの症状が出現する。患側の味覚低下,聴覚過敏などを伴うこともある。自然に治癒することも多いが,薬物療法や外科的治療が行われる。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内のベル麻痺の言及

【顔面神経麻痺】より

…顔面部の運動をつかさどる顔面筋を支配する顔面神経の障害により顔面筋の運動麻痺を生ずる疾患。最も多いのは,一般にベル麻痺Bell’s palsyと呼ばれる特発性顔面神経麻痺で,突然顔の片側の筋肉に弛緩性の麻痺を生じ,眼を閉じようとしても白眼が残ったり,口の片側が垂れ下がってゆがみ,しまりが悪くなるために食物や唾液がもれたりするようになる。また顔面神経に含まれている味覚の神経繊維や,鼓膜張筋支配神経がおかされるため,舌の片側で味がわからなくなったり,片側の耳が音に過敏になったりする。…

※「ベル麻痺」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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