六訂版 家庭医学大全科の解説
顔面神経麻痺(ベル麻痺)
がんめんしんけいまひ(ベルまひ)
Facial paralysis (Bell palsy)
(脳・神経・筋の病気)
どんな病気か
顔面神経麻痺は、顔面神経によって支配されている顔面筋の運動麻痺です。急性あるいは亜急性に発症します。原因疾患が明らかな
原因疾患として多いのは、ヘルペスウイルス感染症で、典型的には
原因は何か
特発性顔面神経麻痺の原因はいまだ不明ですが、考えられる可能性としては
いずれにしても、顔面神経は顔面神経管と呼ばれる骨で取り囲まれた狭いトンネルを通って脳から外に出ますが、何らかの原因で顔面神経がはれる(浮腫)と顔面神経が圧迫され麻痺が現れると考えられています。
症状の現れ方
ベル麻痺の典型的な症状は以下のとおりです。
①男女差、年齢層に関係なく、突然始まる片側顔面筋の運動麻痺が主な症状です。その結果、額にしわを寄せられない、眼を閉じられない、口角が垂れ下がる、口を
②麻痺側の耳が過敏になり、音が大きく響くように感じることがあります。
③麻痺側の舌の前方3分の2の味覚障害を伴うことがあります。典型的な訴えとしては、ものを食べた時、金属を口に入れたような感じがするというものです。
④眼が閉じにくいため、眼を涙で
⑤比較的予後は良好で、数カ月で自然治癒することもあります。
⑥治癒が完全でない場合には、顔面麻痺が残ることがあります。また再生した顔面神経が本来の支配先と異なった筋を支配してしまった場合には、口を閉じると眼が一緒に閉じたり、熱いものや冷たいものを食べた時に涙が出たりする異常連合運動が起こることがあります。
検査と診断
診断は典型的な顔の表情から比較的容易です。しかし、原因となる病気がある場合、両側に同時に発症したり何度も繰り返す場合などは、MRIなどの画像診断が必要です。そのほかにサルコイド、ライム病などのややめずらしい病気でも起こることがあり、それらが疑われる場合には、血液検査などほかの検査が必要になります。
顔面神経麻痺の発症前に、耳のなかに痛みや
治療の方法
基本的には外来で治療可能な場合が多いのですが、検査が必要な場合、診断がはっきりしない場合、顔面神経麻痺の程度が強い場合などでは、入院が必要です。
副腎皮質ステロイド療法が効果的と考えられていますが、糖尿病や感染症を悪化させる可能性があるので、それらの病気がある場合には慎重な対処が必要になります。そのほかに、ビタミンB12やビタミンEなどの製剤が神経修復の促進に使われます。
明らかなヘルペスウイルス感染の証拠がない場合でも、抗ウイルス薬の投与で顔面神経麻痺が改善するという報告が最近あり、同時に抗ウイルス薬が投与されることがあります。また、眼が閉じにくい場合、
リハビリテーション療法も重要で、麻痺した筋肉をゆっくりとマッサージすることや、顔面の筋肉をはたらかせるために百面相の練習をすることが有効です。
野寺 裕之, 梶 龍兒
顔面神経麻痺
がんめんしんけいまひ
Facial paralysis
(子どもの病気)
どんな病気か
分娩時に顔面神経が損傷を受けたために、顔面筋の麻痺を生じるものです。
原因は何か
顔面神経は脳から分岐し、頭蓋骨の、耳の前方に開いている管を通って表面へ出てきて顔面の筋肉に分布します。分娩時にとくに頭蓋骨を貫通する部分が強く圧迫を受けて神経に浮腫が生じるか、神経の断裂が起こった時に顔面神経麻痺が起こります。
症状の現れ方
ほとんどの場合は片方のみに起こります。麻痺を受けた側の眼が閉じられない、口が引きつり大きく開かない、麻痺を受けた側の口角からミルクをだらだらこぼすなどがみられます。とくに泣いた時にはっきりします。
治療と予後
通常は2~3週間で自然に治ります。その間は、閉じられないほうの眼の角膜の乾燥を防ぐために点眼を行います。神経断裂によるものは手術を行い、神経を修復する必要があります。
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報