改訂新版 世界大百科事典 「レディメード」の意味・わかりやすい解説
レディ・メード
ready made
〈既製品〉の意味だが,ダダ時代のM.デュシャンが,一連の量産品に署名しただけのオブジェを〈レディ・メードのオブジェ〉と呼んだことに由来する。ダダやシュルレアリスムのオブジェは,セザンヌからキュビスムをへて20世紀美術に台頭した物体への意識がはっきりと即物的な面であらわれたもので,とくにシュルレアリストたちは,意識下の領域の象徴としてオブジェをとらえようとした。デュシャンの《泉》と題された便器が,レディ・メードの典型だが,ここに性的暗喩がこめられているのは事実としても,作家自身はこう書いている。〈マットMutt氏(デュシャンの偽名)が《泉》を自分の手でつくったか否か,はたいした問題ではない。彼がそれを“選んだ”のである。彼は生活の日常的な品物をとりあげ,新しい題名と新しい観点の下で,その有用な意味が消え去るように,それを陳列した。つまり,ある物体にたいする新しい思考をつくり出したのだ〉。かつてJ.J.ルソーが〈真理は物を判断する精神のなかにあるのではなく,物そのもののなかにある〉と書いた思想が,産業社会のレディ・メードの中でよみがえった,といえよう。
執筆者:東野 芳明
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報