日本大百科全書(ニッポニカ) 「オブジェ」の意味・わかりやすい解説
オブジェ
おぶじぇ
objet フランス語
「前方に投げ出された物」を意味するラテン語のobjectrumを語源とし、現代芸術の用語では、日常的に認められている物の通念をはぎとり、別の存在意味を付加された物体のこと。その発端は、キュビスムのパピエ・コレpapier colléにまでさかのぼれるが、デュシャンの創案にかかるとされている。彼は、レディーメイド(既製品)の便器を『泉』と題しR. Muttの署名を付して、自分も委員をしていた1917年のアンデパンダン展に出品して拒否され、物議を醸した。その後、デ・キリコ、ジャコメッティ、ピカビア、マン・レイ、ダリ、シュビッタースらシュルレアリストとダダイストたちによって、さまざまなオブジェが発表されてきた。こうしたオブジェを、シュルレアリストたちはおよそ次の八つに分類している。(1)数学上の幾何模型や構成された作品、(2)木や石などの自然物、(3)呪術(じゅじゅつ)や魔術につながる未開人のつくった物、(4)日常忘れられていて再発見された物や漂流物、(5)市場に出回っている既製品、(6)動く物体、(7)火事で焼けただれ役だたなくなったような物、(8)潜在意識に働きかける象徴的機能をもつ物体など。
第二次世界大戦後は、デュビュッフェによって、各種のオブジェとコラージュとを寄せ集めたアッサンブラージュが導入され、さらにネオ・ダダやポップ・アーチストのラウシェンバーグ、ウォーホルらによって、量産品やその廃品、印刷物や映像、音や光、行為などがコンバインcombineされ環境化しつつある。
日本では大正末期に村山知義(ともよし)がこれを紹介し、第二次大戦後はおもにアメリカン・ポップの影響を受けながら、ネオ・ダダグループらが積極的に取り組んできた。
こうして、当初は異端視されたオブジェも、今日では美術館に収まるほどにまで常套(じょうとう)化した。日常生活のなかにも、新奇な装飾物として勅使河原蒼風(てしがわらそうふう)が広めたいけ花オブジェ、八木一夫らによるオブジェ焼など、インテリア・オブジェやクラフト・オブジェが取り入れられつつある。
[三田村畯右]