改訂新版 世界大百科事典 「一代要記」の意味・わかりやすい解説
一代要記 (いちだいようき)
年代記の一種。著者不詳。後宇多天皇(在位1274-87)のときに成立し,鎌倉時代末~南北朝時代初期までの書継ぎがある。4巻(流布本10巻)。書名は,天皇一代ごとの主要事項を摘記したの意か。現存部分は神代より花園天皇に至るが,中間および尾部を欠くため,最後は明らかでない。内容は,各天皇ごとに,漢風諡号(しごう)または追号を掲げて略歴と治世中の大事を年代順に記し,次に上皇,皇太子,後宮,前后,斎宮や,摂関,大臣,大中納言,検非違使別当,参議,蔵人頭,前官,非参議,皇子女の各項を設け,該当者の人名を記してある。本書は水戸徳川家の《大日本史》編纂の史料採訪中,延宝年間(1673-81)に金沢文庫本4冊を発見し,甲集より癸集に至る10冊に書写してより,急速に世間に流布するに至った。祖本である金沢文庫本は,現に東山文庫に存し,その欠缺部分の一部は高松宮所蔵である。東山本は4冊で,書継ぎの状況のわかる貴重な本であるが,また各天皇および皇子女が朱と黒の系線で結ばれていて,一大皇室系図になっているが,流布本では系線が省略され,祖本の特徴の一つを減殺している。なお徳川光圀は,《公卿補任》の欠缺部分を補う《公卿補任補闕》を本書によって編纂し,高松藩主松平頼恕が,本書の後を継ぐ《歴朝要記》の編纂を行うなど,史学史上に与えた影響も大きい。《改定史籍集覧》所収。
執筆者:今江 広道
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報