摂政・関白以下参議以上の現官と,三位以上の有位者を列挙した公卿の名簿。現在広く用いられている《国史大系》所収の本書は,神武天皇より持統天皇までは代ごとに,文武天皇以降(697以降)は年ごとに列記して明治1年(1868)に及んでいる。各人につき,本官・位階・年齢・兼官などを注し,初出の個所には,父母と公卿に至るまでの経歴をまとめて載せる。本書の成立の経緯は明らかでないが,平安中期にはすでに現在の形に近いものが作成され,廷臣の間で利用されていたことが,《小右記》などの記録によって知られる。ただ現存最古の写本(平安末~鎌倉初期写)である九条家旧蔵本《公卿補任》は,各人の出自・略歴等を死去または出家の条に記載するなど,現在の形と異なる点があり,室町時代までは多少異同のある数本が存したらしい。室町末期,山科言継が諸本によって書写集成し,その子言経がそれに書き継いで48冊本が成立すると,この山科本がもっとも世に流布して転写され,年々書き足されていった。《国史大系》本も,この系統に属する宮内庁書陵部蔵御系譜掛本60冊を底本とし,諸本によって校訂増補したものである。なお《公卿補任》のほか,太政官の弁・外記の職員録である《弁官補任》《外記補任》,内裏の蔵人の《蔵人補任》《職事補任》などの補任類が部分的ながら伝存し,国史・国文の研究の重要な資料となっている。
執筆者:橋本 義彦
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大臣以下参議以上、非参議三位(さんみ)以上の公卿の氏名、叙位、任官などを注記した職員録。神武(じんむ)天皇の代から1868年(明治1)までを収録する。本書の首部(811年以前)は、『歴運記(れきうんき)』を基にしてつくられており、現在の流布本は、これに812年(弘仁3)以後の分を年々書き継ぎながら、しだいに全体の体裁を整え、欠失部分を補足していったものである。とくに陽成(ようぜい)天皇の884年(元慶8)までの部分には、注記に約280条、16種ほどの諸書が引用してあり、研究に有益である。『公卿伝』との関係については、内容、体裁とも異なり、両者は別書。鎌倉時代の古写本には冷泉家(れいぜいけ)本や九条家本、刊本に国史大系本がある。
[渡辺直彦]
『『新訂増補国史大系 公卿補任』全6冊(1934~39・吉川弘文館)』
神武天皇の代から1868年(明治元)までの高官職員録。持統天皇までは代ごとに,文武天皇以後は年ごとに,摂政・関白以下参議以上および非参議従三位以上のいわゆる公卿の氏名を,歴代官職順に列記し,彼らの略歴・叙位・任官・補任などを注記している。成立時期・著者ともに不明。811年(弘仁2)成立の「歴運記」,もしくは神武天皇から村上天皇の967年(康保4)までを収め,10世紀半ばには成立していたとされる「公卿伝」をもとに順次書きついだといわれている。長年月にわたるため,記述の体裁・方法はかならずしも一様ではない。「国史大系」には,宮内庁書陵部所蔵本を底本とし,諸本で校合補訂したうえ,「六国史(りっこくし)」「日本紀略」「扶桑略記」「本朝世紀」「尊卑分脈」や日記類を参照したものを収める。
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…東山本は4冊で,書継ぎの状況のわかる貴重な本であるが,また各天皇および皇子女が朱と黒の系線で結ばれていて,一大皇室系図になっているが,流布本では系線が省略され,祖本の特徴の一つを減殺している。なお徳川光圀は,《公卿補任》の欠缺部分を補う《公卿補任補闕》を本書によって編纂し,高松藩主松平頼恕が,本書の後を継ぐ《歴朝要記》の編纂を行うなど,史学史上に与えた影響も大きい。《改定史籍集覧》所収。…
※「公卿補任」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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