改訂新版 世界大百科事典 「上歌」の意味・わかりやすい解説
上歌 (あげうた)
平曲,あるいは能の謡などの楽曲構成部分の名称の一つ。平曲では,詞章の和歌を優美に,たっぷりと歌い上げるもの。〈かみうた〉という立場もある。能の上歌は,七五調の詞章を平ノリで節付けしたものの一つで,内容は登場人物の気持ちや感慨を述べる抒情文あるいは叙景文が多く,謡う役はシテ,ツレ,ワキ,地謡など各役にわたる。詞章の句数は一定していないが,10句程度が標準で,最初の2句と,最後の2句は同じ文句の繰返しがふつう。ただし,最初の2句のさらに前に5文字からなる半句が置かれることも多い。楽式は前後の2節に分かれるのが典型で,第1節は上音で始まったあと,1,2度クリ音に上がって中音に下がり,中マワシで終わる。第2節は上音から始まって音域広く上下し,最後は下音(げおん)に終止する。細かい節付けや囃子の併奏にも定型があるが,詞章構造が変形的なときは,音楽構造も変化する。拍子合(あい)の謡の中では,もっとも用途が広く,能1曲中に数回用いられるのがふつうである。道行(みちゆき),初同,待謡(まちうたい)などの固有の名称を有する謡も,その多くは上歌である。また,小謡として独立して扱われるのも,上歌である場合が多い。
執筆者:蒲生 郷昭
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報