能および狂言の用語。(1)能や狂言のほか,舞囃子,仕舞,素謡,小舞などにおける合唱団で,謡曲の構成部分である地謡の個所を斉唱する。上下や紋付袴姿で舞台に着座し,扇子をもって謡う。能では,シテ方が担当し舞台右側の〈地謡座〉に6~10人が2列に座り,後列中央の〈地頭(じがしら)〉がリードする。狂言では,舞台後方の後(あと)座に3~5人が1列に座り,同じく中央の地頭がリードする。舞囃子や仕舞,素謡は,座る位置がそれぞれ異なる。(2)謡曲の構成部分。シテやワキなどが謡う〈役謡〉以外の部分で,(1)の地謡が合唱する。その曲の主題の説明や情景描写,時間の経過,後日談などを述べるほか,シテなどの役が感慨や身の上を語るとき,その代弁をしたりすることが多い。謡本には〈地〉または〈同(音)〉と記される。1曲中で最初の地謡部分を〈初同〉という。古くは〈地〉と〈同〉とは別で,〈地〉の部分は地謡が謡い,〈同音〉の部分はシテやワキも含めて全員が合唱することを意味したが,ワキ方の独立など各役の分担制が確立するのに伴い地謡だけが謡うようになったらしい。
執筆者:松本 雍
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能における地の詞章の部分。地、同音ともいう。またそれを担当する斉唱団(地謡方(かた)、地方(じかた))。能の場合6~12人出て能舞台の右手(地謡座)に横向きで2列に正座する。裃(かみしも)または紋服に袴(はかま)で、扮装(ふんそう)はしない。後列中央(偶数の場合は流儀によって右あるいは左)がリーダーで地頭(じがしら)といい、音階、リズムほかすべてをつかさどる。地謡方はシテ方から出るが、なかには地謡専門で型を舞わぬ人もある。地謡の内容は、第三者側からの説明や叙情、叙景ばかりではなく、登場人物の台詞(せりふ)の代弁、心理描写の場合も多い。狂言でも3~5人の地謡を出すことがあるが、能の仕舞(しまい)のときのように、舞台中央奥に正面に向かって座り地謡座は用いない。
[増田正造]
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…その他,鬼退治物の《紅葉狩》《羅生門》,天狗物の《鞍馬天狗》,祝言物の《石橋(しやつきよう)》《猩々(しようじよう)》などである。
【役籍】
能は,役に扮して舞台に立つ立方(たちかた)と,もっぱら音楽を受け持つ地謡方(じうたいかた),囃子方とで成り立つが,それぞれの中で技法がさらに分化し,室町時代末期に七つの専門が確立した。立方を勤めるシテ方,ワキ方,狂言方と,囃子方である笛方,小鼓方,大鼓方,太鼓方の7役籍がそれで,江戸時代以降,互いに他の専門を侵さない規律ができ,現在でもそれが守られている。…
※「地謡」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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