日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
下垂体性TSH分泌亢進症
かすいたいせいてぃーえすえいちぶんぴつこうしんしょう
下垂体のTSH(thyroid-stimulating hormone)産生腫瘍(しゅよう)によりTSHが過剰分泌される疾患。指定難病。TSHは下垂体の前葉から分泌されるホルモンの一つで、甲状腺(せん)刺激ホルモンあるいはサイロトロピン(thyrotropin)ともチロトロピンともいい、甲状腺を刺激して、甲状腺ホルモンの産生と分泌を促進する。下垂体性TSH分泌亢進症では、血中TSH値の上昇に伴い、甲状腺ホルモンが高値となり、動悸(どうき)や頻脈、発汗増加、体重減少などの甲状腺中毒症状や甲状腺のびまん性腫大(しゅだい)が認められる。下垂体腫瘍が大きくなると頭痛や視野障害なども生ずる。また他の下垂体ホルモンの分泌異常を伴い、過剰なホルモンによる症状がみられることがある。TSH産生腫瘍は、全下垂体腫瘍の1~2%を占め、発生率は100万人に1~3人とまれで、性差はほとんどない。一部の多発性内分泌腫瘍症を除き、腫瘍の原因は不明である。治療法としては、摘出手術あるいはガンマナイフによる放射線治療を行い、その効果が不十分な場合は、ドーパミン作動薬やソマトスタチン(成長ホルモン抑制因子)アナログ製剤などによる薬物療法が行われる。
なお、下垂体に腫瘍がないのに血中TSH値が高い場合には、甲状腺ホルモン不応症の可能性がある。甲状腺ホルモン不応症では、甲状腺ホルモン(トリヨードチロニンtriiodothyronine)受容体異常により下垂体における甲状腺ホルモンによるTSH分泌抑制が障害され、TSHの過剰分泌と血中遊離トリヨードチロニン値の上昇がみられる。
[大久保昭行 2016年6月20日]