内科学 第10版 の解説
Basedow病以外の甲状腺機能亢進症(甲状腺機能亢進症)
a.機能性腺腫(functioning adenoma;Plummer病)
甲状腺結節が自律性の甲状腺ホルモン合成能を獲得したもので,ほとんどが良性の濾胞腺腫である.わが国では甲状腺中毒症の0.15~0.3%を占めるのみで,欧米に比べ圧倒的に少ない.スウェーデンでは甲状腺中毒症の25%を占めるという.この差はヨウ素摂取量によると考えられている.機能性腺腫の一部は,TSH受容体遺伝子,Gs蛋白遺伝子のgain of function型突然変異による.腺腫から過剰の甲状腺ホルモンが分泌されると,TSH分泌が抑制され,周辺の正常甲状腺や他腺は萎縮する.診断には甲状腺シンチグラフィが有効で,腺腫に一致して取り込みの集積が認められ,他腺は検出されない(hot nodule)か,淡い.甲状腺中毒症を呈する機能性腺腫はPlummer病ともよばれるが,わが国ではまれである.治療は手術による腺腫切除か131I-内用療法が選択される.
b.中毒性多結節性甲状腺腫(toxic multinodular goiter)
Plummer病が1個の結節からなるのに対し,本症は多数の結節が自律性に甲状腺ホルモンを合成・分泌する.やはりわが国では欧米に比べ頻度が低い.腺腫様甲状腺腫(adenomatous goiter)が基礎にあり,長年の間にホルモン合成が自律性をもってきたと理解されている.欧米での報告では約60%にTSH受容体の遺伝子異常が認められる.甲状腺シンチグラムでは不均一な取り込み像となり,数個のhot nodulesを示す.甲状腺中毒症状はBasedow病より一般に軽度で,眼症を伴うことはない.131
Iによる放射性ヨウ素治療が行われるが,Basedow病に比べ感受性が低い.甲状腺腫が非常に大きい場合は手術が選択される.
c.TSH産生腫瘍(TSH producing tumor)
下垂体TSH産生細胞に腫瘍があり,過剰のTSHが分泌されるため甲状腺が刺激され機能亢進をきたすものである.血中の甲状腺ホルモンレベルが高いのにTSHが抑制されていない,不適切TSH分泌状態(SITSH)になる.びまん性の甲状腺腫を触知し,甲状腺放射性ヨウ素摂取率は上昇する.甲状腺ホルモン不応症との鑑別が問題となる.MRIやCTで下垂体腺腫が認められ,TRH負荷試験でTSH分泌の反応が乏しいと可能性が高くなる.甲状腺ホルモン不応症に比べ,甲状腺中毒症状がみられる.TSH産生腫瘍は下垂体腫瘍のなかの約0.5%とまれな疾患と考えられてきたが,画像検査の進歩により症例数が増加している. 90%以上がマクロアデノーマで,約2/3の症例では鞍上部への進展が認められる.手術により下垂体腫瘍を摘出する.手術が困難な場合には,オクトレオチド投与または放射線療法を行う.
d.胞状奇胎(hydatidiform mole),悪性絨毛上皮腫(malignant chorioepithelioma)
いずれも妊娠に合併する疾患で,過剰に産生される胎盤性ゴナドトロピン(human chorionic gonadotropin:hCG)あるいはその関連物質により甲状腺が刺激され,甲状腺機能亢進症となる.hCGは構造がTSHと類似しているため,TSH受容体と結合して甲状腺刺激作用を示す.通常の妊娠でもhCGが高い妊娠早期(7~15週)には,甲状腺ホルモンの軽度上昇とTSHの抑制をみる.胞状奇胎は200回の妊娠に1回,悪性絨毛上皮腫は6万回に1回の頻度でみられるとされ,hCGがきわめて高いために甲状腺中毒症が生じる.診断は婦人科的確認と血中hCGで行う.甲状腺機能亢進症は原疾患の外科的摘除によって速やかに改善する.[中村浩淑]
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報