細胞が細胞内で合成された物質または細胞の代謝産物を細胞外に放出する現象。「ぶんぴ」ともいう。放出された物質を分泌物という。分泌物が生体にとって不用な場合は排出といって区別する。後生動物ではこのような分泌を行う細胞を腺細胞(せんさいぼう)または分泌細胞といい、腺細胞が集まってつくる組織または器官を腺という。分泌には外分泌と内分泌とがあり、分泌物を外部に導出する管をもつ外分泌腺と、特別の導管がなく体液中に分泌物を直接に放出する内分泌腺が区別される。
分泌細胞内でつくられた分泌物が細胞外に放出される形式には全分泌、離出分泌、漏出分泌の三通りがある。全分泌とは、分泌物が充満するため核が萎縮(いしゅく)し、死んだ細胞が全体として分泌されることをいう(皮脂腺、腸の杯(はい)状細胞など)。離出分泌では、分泌物が細胞の表層近くに集まり突出し、突起の付け根がくびれて離れる(離出汗腺、乳腺など)。漏出分泌は、電子顕微鏡を用いた観察により、さらに開口分泌と透出分泌に分けられる。開口分泌はエキソサイトーシスともよばれ、限界膜に包まれた分泌顆粒(かりゅう)が細胞膜と癒合し、開口した癒合点から内容物が外へ放出される形式である(膵臓(すいぞう)外分泌腺細胞、唾液(だえき)腺の漿液(しょうえき)細胞など)。一方、透出分泌とは、細胞膜の変形なしで内容物が細胞外へしみ出る形式をいう。
分泌物としてタンパク質性物質を多量に生産する細胞には、粗面小胞体がよく発達している。ムチンを主成分にする粘液を分泌する細胞はムチカーミンやシッフ試薬によく染まる。皮脂腺のように脂肪を分泌する細胞には、小管状の滑面小胞体がよく発達し、絨毛(じゅうもう)状のクリスタをもつミトコンドリアがある。
動物に発達している腺には、その生態や生活史と関連して特殊な機能を発揮するものがある。たとえば、海産硬骨魚類のえらにある塩類細胞は血液中の塩類を排出し、ハトの嗉嚢(そのう)は雛(ひな)を育てるためのミルクを分泌し、また、カイコの絹糸腺は生糸を吐出する。このほか、同種と異種を区別するにおい物質を分泌する特殊な腺もある。
[川島誠一郎]
植物の場合には、特殊な分泌細胞、あるいは分泌細胞が集まって分泌物を含有する分泌組織がある。分泌組織には、分泌物を細胞内に含むもの、長い管状組織となったもの、細胞間隙(かんげき)が発達して袋状になったものなどがあり、分泌物としては、タンニン、精油、乳液、粘液、油脂、ゴムなどがある。蜜(みつ)を分泌する蜜腺やタンポポの乳管、マツなどの樹脂道が分泌組織の例である。生理的に重要な分泌物として、ホルモンや酵素などがある。オオムギの種子の胚(はい)から植物ホルモンであるジベレリンが分泌され、このジベレリンの作用で糊粉(こふん)層からアミラーゼ(酵素)が胚乳へ分泌される例は有名である。
[吉田精一]
細胞が,過剰な塩また代謝産物を外部へ放出すること。放出される生産物は分泌物と呼ばれる。動物ではふつう,分泌活動を主とする細胞は集合して分泌腺を形成する。消化腺や皮膚腺のように,分泌物を体腔や体外に導く管を備える場合,これを外分泌と呼ぶのに対し,分泌物を直接血液や体液中に放出するのは内分泌である。内分泌される物質はホルモンと総称される。分泌細胞すなわち腺細胞は,小胞体とゴルジ体がよく発達し,分泌物が顆粒(かりゆう)や滴となっていることが多い。消化酵素や下垂体ホルモンなど,ペプチドやタンパク質は,粗面小胞体で合成され,ゴルジ体で濃縮された後,分泌顆粒となる。ステロイドホルモンは滑面小胞体で合成される。腺細胞が分泌活動を営むに際しては,細胞内に生産された分泌物のみを放出する部分分泌と,細胞内に充満した分泌物を保持し,細胞全体がおし出される全分泌とがある。
植物では分泌細胞は分泌組織secretory tissueを形成する。分泌組織は植物体の表面につくられる外部分泌組織と体内につくられる内部分泌組織とに分けられる。前者には葉の表面の分泌毛など,表皮からの突起の多くが知られているし,花のみつ腺もある。また,葉にあって排水作用,すなわち水を体外に排出する働きをもつ水孔もある。内部分泌組織にはいろいろな物質を蓄える働きをするさまざまな分泌細胞と,細胞がこわれたり細胞間が離れてできた細胞間隙(かんげき)に分泌物が蓄えられる分泌孔あるいは分泌管があり,乳液を蓄える乳細胞や乳管,そして粘液道もその例である。分泌組織には虫を捕らえる食虫植物の分泌毛など,その機能の明らかなものもあるが,一般的には機能についてわからないものも多い。
→腺
執筆者:町田 武生+原 襄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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