甲状腺の検査(読み)こうじょうせんのけんさ

家庭医学館 「甲状腺の検査」の解説

こうじょうせんのけんさ【甲状腺の検査】

 甲状腺病気診断のための検査には、採血(さいけつ)が必要なものと、そうでないものとがあります。2つに分けて説明しましょう。
◎採血を必要とする検査
◎採血を必要としない検査

◎採血を必要とする検査
●フリーT3 、フリーT4
 甲状腺から分泌(ぶんぴつ)されるホルモンには、トリヨードサイロニン(T3)と、サイロキシン(T4)の2種類があります。
 血液中では、T3もT4も、その大部分は、たんぱく質と結合していますが(結合型)、一部は結合していません(遊離(ゆうり)型)。この遊離型の甲状腺ホルモンを、フリーT3、フリーT4と呼びます。
 たんにT3、T4という場合は、結合型と遊離型を合わせた甲状腺ホルモンの全体を意味します。
 甲状腺ホルモンは、遊離型であるときだけ効果を発揮します。これを活性(かっせい)があるといいます。
 血液中でのフリーT3、フリーT4濃度は、甲状腺のはたらきぐあいを非常によく表わしています。
 なお、2種類の甲状腺ホルモンのうち、T4に比べてT3のほうが数倍も高い活性をもっています。
 基準値は、フリーT3が、血液1mℓ中に2.1~4.0pg(ピコグラム)(1pgは1兆分の1g)、フリーT4が、1dℓ中に0.8~1.8ng(ナノグラム)(1ngは10億分の1g)です。甲状腺機能亢進症(こうじょうせんきのうこうしんしょう)の人では増加し、機能低下症(きのうていかしょう)の人では減少します。
 なお採血は、朝食をとらずに空腹時に行なうのが原則です。
 甲状腺ホルモン剤として、乾燥甲状腺末(かんそうこうじょうせんまつ)(甲末(こうまつ))やT3剤を服用しているときは、内服後、急激に血中のT3値が上昇するため、検査直前の服用はやめ、採血します。
 なお、T4剤はこの必要はありません。
甲状腺刺激ホルモン(TSH)
 TSHは、脳の下垂体(かすいたい)の前葉(ぜんよう)という部分から分泌され、血液に入って甲状腺を刺激し、甲状腺ホルモンの合成・分泌をうながします。
 TSHの分泌は、血液中の甲状腺ホルモンの濃度と、脳の視床下部(ししょうかぶ)から分泌されるTSH放出ホルモン(TRH)によって調節されます。そのため、視床下部や下垂体の病気でも、血中のTSHの濃度は変動します。
 しかし、もっとも多い変動の原因は、甲状腺の病気によって、血中の甲状腺ホルモンが変動することです。
 TSHは、バセドウ病、プランマー病などの甲状腺機能亢進症にかかっている人では低値となり、原発性甲状腺機能低下症の人では高値となります。
●甲状腺自己抗体(こうじょうせんじここうたい)
 甲状腺の自己抗体として、免疫機構の標的になる抗体としては、抗サイログロブリン抗体と、抗マイクロソーム抗体があります。
 抗サイログロブリン抗体は、慢性甲状腺炎でみられる(陽性になる)ことが多く、抗マイクロソーム抗体は、慢性甲状腺炎のほか、バセドウ病の人でも陽性となることが少なくありません。
●甲状腺刺激(こうじょうせんしげき)ホルモン(TSH)受容体抗体(じゅようたいこうたい)(甲状腺刺激抗体(こうじょうせんしげきこうたい)と刺激阻害抗体(しげきそがいこうたい))
 バセドウ病の人の血液中には、甲状腺を刺激してホルモン分泌を促進させる物質(抗体)が存在すると考えられています。
 これは、TSH受容体抗体と呼ばれ、甲状腺のホルモン分泌細胞(濾胞上皮細胞(ろほうじょうひさいぼう))の膜にあるTSHの刺激を受けとる部位(TSH受容体)に対して結合する抗体です。
 以上のように、バセドウ病の人では、ホルモン分泌刺激型のTSH受容体抗体がみいだされるのが特徴です。
 しかし粘液水腫(ねんえきすいしゅ)などでは、重い甲状腺機能低下症をひきおこすTSH受容体抗体(ホルモン分泌阻害型の抗体)もみられます。
●血中腫瘍(けっちゅうしゅよう)マーカー(「腫瘍マーカー」)
 サイログロブリンというのは、甲状腺内に存在する巨大な糖たんぱく質分子(糖とたんぱく質の両方の性格をもつ、分子量66万の分子)です。
 このサイログロブリンの血液中の値は、甲状腺の腫瘍(とくに甲状腺濾胞腺(こうじょうせんろほうせん)がん、乳頭(にゅうとう)腺がんなど、分化したがん)の人で上昇するほか、バセドウ病や、亜急性甲状腺炎(あきゅうせいこうじょうせんえん)などの人でも高くなります。
 カルシトニンやCEAは、甲状腺髄様(こうじょうせんずいよう)がんの人で増えます(甲状腺がん(「甲状腺がん」))。

◎採血を必要としない検査
●甲状腺放射性(こうじょうせんほうしゃせい)ヨード(123I 、131I)摂取率(せっしゅりつ)
 ヨードの放射性同位元素(放射性ヨード、123I 、131I)をカプセルの形で内服し、その放射性ヨードの放射線をおいかけて、一定時間後に、そのうちの何%が甲状腺にとりこまれたかをみます。
 通常では、123Iのカプセルを内服し、6時間後(131Iでは、24時間後)に測定します。
 基準値は10~40%で、甲状腺機能亢進症の人では増加し、機能低下症の人では減少します。亜急性甲状腺炎の初期の人では、著しく低い値となります。
 微量のヨードを摂取しても、測定値に影響が出るため、検査の2週間前から、海藻などヨードを含んだ食物をとらないよう、厳重な食事制限を必要とする検査です。
 T3剤を、1日に75μg(マイクログラム)(1μgは100万分の1g)で、7日間内服し、その前後に甲状腺放射性ヨード摂取率の検査を行なって、比較する検査(甲状腺T3抑制試験)が行なわれることもあります。
 健康な人では、T3剤を服用すると、ヨードの摂取率が半分以下に抑えられますが、バセドウ病やプランマー病の人ではヨードの摂取率は抑制されません。
 こうした理由で、バセドウ病の診断確定や、治癒(ちゆ)の判定に使われている検査です。
●画像診断
 甲状腺の腫瘍を電磁波や高周波によってえられた画像で検査・診断するものです。比較的やわらかい組織も写る頸部軟(けいぶなん)X線撮影のほか、超音波エコー検査、甲状腺シンチスキャン(放射性同位元素を利用して画像にするもの)、CTスキャン(コンピュータ断層撮影)、弱い磁気を利用して組織の画像をえるMRI(磁気共鳴画像装置)検査などが行なわれています。
 嚢胞(のうほう)などの良性腫瘍や、結節内(けっせつない)の出血は、超音波検査で診断できますが、通常、これらの画像診断では、腫瘍があることはわかっても、良性であるか悪性であるかの区別まではできません。
●甲状腺針生検(こうじょうせんはりせいけん)
 甲状腺の腫瘍の部分に針を刺し、その一部を採取して、顕微鏡で腫瘍の細胞の種類を調べる検査です。
 腫瘍が良性か悪性かは、これによって、はっきりと診断できます。
 外来で簡単にでき、苦痛がほとんどないため、生検(組織をとって顕微鏡でみる検査)のうち、この穿刺吸引細胞診(せんしきゅういんさいぼうしん)という方法がよく用いられます。

出典 小学館家庭医学館について 情報

今日のキーワード

潮力発電

潮の干満の差の大きい所で、満潮時に蓄えた海水を干潮時に放流し、水力発電と同じ原理でタービンを回す発電方式。潮汐ちょうせき発電。...

潮力発電の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android