改訂新版 世界大百科事典 「下筌ダム」の意味・わかりやすい解説
下筌ダム (しもうけダム)
筑後川水系津江川の上流,熊本県阿蘇郡小国町と大分県日田市にまたがって建設された洪水調節・発電用の多目的アーチダム。建設省によって1972年に完成された。高さ98m,堤頂長248.2m,堤体積28万2000m3,貯水池の湛水(たんすい)面積2km2,総貯水量5930万m3,有効貯水量5230万m3。筑後川は,流域各地の発展に役だってきたが,反面,一度洪水になるとその被害は甚大で,とくに1953年の大洪水では二十数ヵ所で堤防が決壊し大被害を生じた。このような大洪水は堤防工事だけでは防御できないため,大山川の松原ダム(重力ダム,高さ83m)とともに建設が計画されたのが下筌ダムで,60年から調査に着手した。翌年,水没地の地主らによって計画の不完全を理由とするダム建設反対の訴訟が起こされ,土地収用の際にはダムサイトに大きなハチの巣をつるし,山腹にとりでを造って抵抗したので〈蜂(はち)の巣城〉として報道された。訴訟は地主側の敗訴となったが,以後のダム建設に伴う補償に対し,水没地の住民との信頼関係樹立がいかにたいせつかを示唆した。
執筆者:柴田 功
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報