翻訳|dam
水をためるため河川や渓谷を横切って築く。雨をためて河川の氾濫を防ぐ治水ダム、生活、工業、農業、発電用の利水ダムがある。用途によって国や自治体、電力会社、土地改良区などが管理している。治水、利水両方の役割を兼ねたものは多目的ダムと呼ばれ、それぞれ単独で別に造るよりコストが低い。発電は高い所から低い所に水を落として水車を回すなどの仕組みがあり、二酸化炭素をほとんど排出しない。
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河川,渓谷,凹地などを横断して,貯水,取水,水位の上昇,あるいは貯砂のためにつくる構造物。世界ダム台帳にのせられる大ダムは,高さ15mを超えるダムと,高さが10~15mで天端の長さが500m以上のもの,ダムによる貯水池の容量が100万m3以上のもの,ダムで処理される最大洪水量が2000m3/sを超えるもの,基礎に特別な困難をもったもの,特別な設計を行ったもののすべてである。
エジプトやアラビア半島には石積みダムの遺跡がいくつか残っているが,前2900年ころにエジプトの王メネスが,メンフィスに導水するため20km離れたナイル川のコシェイシュに高さ15m,堤長450mの石積みダムをつくったとされており,これがダムのもっとも古い記録である。当時のダムは,都市の維持に不可欠な水の取水,あるいは灌漑を目的としたもので,都市の繁栄はこれらのダムによって支えられていたといっても過言ではない。しかし,一方では当時の未熟な技術でつくられたダムはしばしば崩壊を起こした。例えばサバ王国,のちにヒムヤル王国の都市として繁栄していたマーリブの町は,灌漑などに供するダム群によって支えられていたが,6世紀に起こったダムの決壊によって衰退が決定的になったといわれ,この例のようにダムは文明の興廃と密接な関係をもっていた。
古代ローマにおいても取水のためのダムが多数つくられたが,それらのうち,スペイン南部に残るコルナルボ・ダム(高さ17m)は今も使用されている。その後幾多のダムが世界各地に建造されたが,この間に1594年にスペインにつくられたアリカンテ・ダムは高さ41mで,その後2世紀の間世界一高いダムであった。
ダムに近代的な設計理論がとり入れられるようになるのは19世紀も後半になってからのことである。1895年にフランスのエピルナ付近にあった石造のブゼイ・ダムが決壊したが,その研究から揚圧力(ダム底にかかる水圧)の存在が認められ,これを設計にとり入れることによってようやく重力ダムの近代的な設計体系が確立されたのである。設計理論の進歩とあい前後してダム材料,施工方法も発展を遂げ,アメリカでは,1905年にニュークロトン・ダムで初めてポルトランドセメントが使われ,1910-15年に建設したケンシコ・ダムでは高度な機械化施工をしてダム建設史に新しい時代をもたらした。コンクリートダムの技術的基礎はこれらを背景に確立され,次々と大ダムの建設が始まった。コロラド川に36年に完成したコンクリート量340万m3のフーバー・ダムは,設計,施工技術の飛躍的な向上をみせ注目を集めていたが,この従来の規模をはるかにこえたダムも,わずか6年後にはワシントン州コロンビア川に完成されたコンクリート量810万m3のグランド・クーリー・ダムなどに追い越された。
一方,1922-37年に土のパイピング(土中の流水によって内部が洗掘されること)や締固まりに関係する最適含水比など,土に関する基礎的研究が著しく進み,これに施工機械の改良,大型化とがあいまって,このころから土や砂れきやロック(岩塊)を堤体材料とするロックフィルダムが急速に発展した。ヌレーク・ダム(旧ソ連,現タジキスタン)など現在の世界最高クラスのダムはこの形式である。
日本においては,灌漑用の溜池としてのアースダムは弥生時代末期から造られたと考えられているが,記録に現れるのは崇神天皇62年に造られたという河内国の依網(よさみ)池である。奈良時代には満濃池がつくられ,さらに1128年には当時としては世界最高の32mの大門池が大和川につくられている。
しかしながら,日本におけるダムは以後江戸時代に至るまで小規模なアースダムであった。コンクリートダムとしては1900年の五本松ダムが最初で,その後38年近代工法としてケーブルクレーンによるコンクリートの運搬やバイブレーターによる締固めを用いた塚原ダムが完成し,日本でもこのころから機械化施工が本格化した。以後高いダムが相次いで計画,着工されたものの戦争のため中断され,本格的なダム技術の開花は第2次世界大戦の終了を待たねばならなかった。
終戦とともに荒廃した国土の復興を目的として,50年に〈国土総合開発法〉が制定され,災害の防除,電力の開発,食糧の増産が計られることとなったが,その一環として52年〈電源開発促進法〉が生まれ,以後電力源として発電専用の大ダムが多数つくられた。ダムの形式もこのころから多様化し,日本最初の表面遮水壁型ロックフィルダムとして53年に石淵ダムが,同じく日本最初の中空重力ダムとして57年に井川ダム,アーチダムとして55年に上椎葉ダムが完成した。さらに56年に完成した佐久間ダムでは画期的な大型機械をアメリカから輸入して建設にあたり,大型機械による最新の施工技術を確立,その後多数の100m級の大ダムがつくられていった。
60年代に入ると,有利な水力地点が少なくなり,伸び続ける電力需要に対して発電原価の安い重油専焼の大容量火力発電が開発され,水力発電は負荷変動に対する即応性を利用するものに重点がおかれるようになって,揚水発電のダムが登場してきた。そして,ほぼ65年を境として,それまでの発電専用ダムから,洪水調節,都市用水をおもな利用目的とする多目的ダムの建設に主流が移ってきている。これらのダムは人口の多い都市への給水を対象とするため,地形,地質に恵まれなくても建設しなければならず,このため技術的困難を伴うばかりでなく,さらに水源地域と受益地域との利害の調整をする必要があるなどむずかしい問題をかかえているが,河川総合開発事業として,95年までに約380のダムが竣工している。
→多目的ダム
第2次大戦後,世界で大ダムが続々と建設されてきた間に,1953年マルパッセ・ダム(フランス。アーチ)が基礎岩盤の滑落により決壊し,396人の死者を出した。この事故により基礎岩盤の研究をする岩盤力学という新しい分野の学問が起こった。また63年バイオント・ダム(イタリア。アーチ)の貯水池に大きな山が地すべりを起こして落ち込み,貯水のほとんどがダムを越えてあふれ出して2125人の死者を出し,貯水池周辺の地すべりに対する入念な配慮の必要性を学んだ。さらに76年ティートン・ダム(アメリカ。ロックフィル)が湛水(たんすい)を始めたところ,基礎岩盤の割れ目を流れる浸透流によって堤体の土質材料が洗い流されて決壊し,14人の死者を出した。これらの事故を教訓として,ダムの設計,施工の技術は一段と進歩向上し,同時にダムの安全性を増大させ,信頼度をより高めて今日に至っている。
ダムは,使用目的,材料,構造などによって分類される。使用目的で分けると,貯水ダム,取水ダム,砂防ダムなどになるが,ふつうダムという場合には貯水ダムを指すことが多い。貯水ダムは,上流に降った大雨が一度に流下して下流に大洪水の被害が起こらないように水を一時貯留しておき,下流の流量が減ってから放流する洪水調節,農業用水の補給を行う灌漑,貯水池水面との落差を利用する水力発電(揚水発電を含む),都市用水,工業用水などに利用される(外国では舟運に使われることもある)。これらの用途のうち一つの用途にだけ供せられるものを専用ダム,二つ以上の用途に供せられるものを多目的ダムという。取水ダムは,発電用,灌漑用などの水路に河川の流水をとり入れるために建造される。砂防ダムは,荒れた山地から流出する多量の土砂をせき止め蓄えるためにつくられるが,これはまた河床こう配を緩くして河谷の洗掘浸食を防止するのにも役だつ。
構造面からは,ダムの大部分が貯水を放流するためのゲート(水門扉)のように動かしうる構造物で占められる可動ダムと,ダム本体の主要部分が動かすことのできない固定ダムとに分けられるが,ほとんどのダムが固定ダムである。固定ダムのうち,堤頂にゲートを取り付けたりして水を越流させるようになっているものを越流ダム,越流させるように設計されていないものを非越流ダムという。
材料面からは,コンクリートでつくられたコンクリートダム,土,砂れき,ロックからなるフィルダム(アースダムとロックフィルダムの総称。ただし日本独特の呼名である),ダムの一部がコンクリートダム,他の部分がフィルダムからなる複合ダム,鋼でつくられた鋼製ダムなどになるが,このうち鋼製ダムはほとんどが低い砂防ダムに用いられる。コンクリートダムは,さらに設計理論によって,重力ダム,中空重力ダム,アーチダム,バットレスダムなどに分類され,ふつうダムの形式といえば,この設計理論による分類を指すことが多い。以下ではこれらとフィルダムについてやや詳しく述べる。
貯水池の水圧や地震力などの大きな外力(高さ100mのダムでは幅わずか3.5mで約2万5000tの力がかかる)によってダムが転倒したり滑動することに対して,ダムコンクリートの自重で抵抗させる構造のダム。その断面は上流面がほぼ鉛直,下流面が0.8(鉛直1.0に対して水平が0.8)のこう配をもつ三角形とするのがふつうである。一般にダムが建設される地帯(ダムサイトという)の地質は,河床付近に良好な岩盤があり,両岸の上部では風化が進んでいるため比較的弱いことが多い。一方,ダムにかかる水圧は水深の2乗に比例して大きくなるため,ダムの高さが最大となる河床部で水圧荷重が最大となる。したがって岩盤の良好な河床部で大きな荷重を支え,両岸上部では小さな荷重を受けもつという構造になっている重力ダムは,地形,地質の特性にもっとも適合したものといえる。ダムの頂部には,ふつうその中央部付近に水門を設け,水門の開閉によって貯水を越流させ洪水流量の調節を行う。重力ダムは設計理論がもっとも簡単で,地震に対する安全性が大きいし,施工方法も確立されており,さらに工事中に大洪水によって越流されても壊滅的な被害を受けないなどの理由で,日本ではこの形式のダムがもっとも多くつくられている。しかし大きな変形のおそれのある弱い岩盤や,緩傾斜の断層がある地質では設計施工上特別な対処が必要となるし,またロックフィルダムに比べると工費が高く,かつ工期が長くなるなどの短所もある。
なお,堤体には15m間隔に横継目(目地)を設けるが,これは新しく打ち込んだコンクリートのセメントが,硬化する際の発熱(40~50℃になる)によるひび割れが他の部分にできないようにするためであり,ここから漏水しないように銅板などの止水板を埋め込んである。代表的な重力ダムとしてはグラン・ディクサンス・ダム(スイス。高さ285m)が最高で,シャスタ・ダム(アメリカ。高さ183m),奥只見ダム(福島県。高さ157m),佐久間ダム(愛知・静岡県境。高さ155.5m),小河内ダム(東京都。高さ149m),早明浦ダム(高知県。高さ106m)などがある。
上流側のダイヤモンドヘッド(貯水を止めるため上流側に設けるブロックで,八角形の断面をもつものが多いのでこう呼ぶ),中間の扶壁,下流側のティル(耐震性を増すため扶壁の下流端に張ったコンクリート壁)が一体となったⅠまたはⅡ字形の水平断面をもつコンクリートを並べたダム。その内部に空洞があるのでダム底に作用する揚圧力が少なくなるという利点を生かし,さらに上流面のこう配を緩くした三角形の横断面としてその上にのる貯水池の水の重さを利用して空洞によりダムの重量が減った分を補っており,重力ダムと同様にして転倒や滑動に対する安定性を確保している。重力ダムよりコンクリート量を約30%節約できるが,コンクリートを打ち込むための型枠に手間がかかるので,あまり多くつくられてはいない。イタリアで発達した形式のダムで,代表的なものにはアンチパ・ダム(イタリア。高さ111m),井川ダム(静岡県。高さ103.6m)がある。
平面形状がアーチ形をしており,水平方向のアーチ作用と鉛直方向の片持ちばり作用とによって,水圧などの外力を側方と下方の岩盤に伝える構造のダム。ヨーロッパではローマ帝国以前からアーチの建造物が多くあり,ダムをアーチで構成することにとくに違和感がなく発達した。これに対して,日本では古くから建物が垂直の柱と水平なはりというように直線の組合せであったこと,また地震に対しての安全性に確信をもてなかったため,アーチダムはなかなか採用されなかった。アーチ作用を利用して外力に抵抗するので谷幅が狭いほど有利となり,例えば谷幅とダムの高さの比率が1.5程度のときはコンクリート量が重力ダムの1/3以下ですむ。しかし高次の不静定構造物であり,近年コンピューターの発達によって設計計算が容易になったとはいえ,設計には高度の技術を要する。またダムの底部だけでなく側部にも巨大な荷重がかかるため,河床部,両岸とも堅固で良好な岩盤が必要である。さらにアーチ推力によってダムを取り付ける岩盤マス(設計上想定されるせん断面と地表面に囲まれた大きな岩塊。これがダムからの力に抵抗する)が滑るように位置する断層があるときは不向きである。このほか洪水量の多い河川では洪水吐の設計がむずかしい。イングリ・ダム(旧ソ連,現グルジア。高さ272m),1936年完成しダム技術の飛躍的発展に寄与したフーバー・ダム(アメリカ。高さ221m),上椎葉ダム(宮崎県。高さ110m),黒部ダム(富山県。高さ186m),矢木沢ダム(群馬県。高さ131m),奈川渡ダム(長野県。高さ155m)などがある。
鉄筋コンクリートの版,またはアーチで水をせき止め,その荷重を鉄筋コンクリートの扶壁,または柱で支える構造のダム。使用材料は他の形式のダムに比べるともっとも少ない。世界には美しい外観をもつバットレスダムが多数あるが,温度変化や地震に対する安全性が劣るうえ,施工が煩雑なため,日本では多くない。ダニエル・ジョンソン・ダム(カナダ。高さ214m),ロスラン・ダム(フランス。高さ150m)などがあるが,日本では丸沼ダム(群馬県。高さ33m)が最高である。
土,砂れき,ロックを盛り立ててつくるフィルダムのうち,半分以上がロックからなるもの。遮水機能を果たす部分の構造によってゾーン型,表面遮水壁型に大別される。ゾーン型は透水性の異なるいくつかのゾーンで構成され,中央に土質遮水壁を設ける。土質遮水壁の薄いものをコア型と呼ぶが,これはさらにコアが垂直な中央コア型,上流に傾斜している傾斜コア型に分けられる。そしてダムの外側にいくにつれて粒径が大きく水を通しやすいゾーンが配置される。これは貯水位が下がったとき,堤体の内部に残った水の圧力によって,堤体材料が外側に押されて安定を阻害しないように排水性をよくするとともに,地震時の安全性を高めるためである。そのためロック材は堅固で耐久性に富み,ひび割れを生じにくいことが必要である。表面遮水壁型はロックフィルの上流面に鉄筋コンクリート,またはアスファルトの遮水壁を張ったもので,耐震性や耐久性に問題があると考えられているので,日本ではあまりつくられていない。
ロックフィルダムの断面は台形状で,表面のこう配は材料の粒径や強さに応じて1.8~2.7(鉛直1.0に対し水平1.8~2.7)にする。日本では多くのダムが建設されてきたため,現在ではダムサイトの地質が良好なところが少なくなってきた。ロックフィルダムの場合は,その底幅が広いため基礎にかかる貯水池水による応力はあまり大きくならず,基礎のよくないダムサイトでも高いダムが建設できるという長所があり,近年来建設機械の大型化が進み多量の土工が確実にでき,かつ工事単価が安くなったこともあってますます建設される趨勢(すうせい)にある。ただし堤体はコンクリートのように固まらないので洪水の越流に対しては弱く,工事中を含めて大きな容量の洪水吐を設けなければならない。そして堤体が不等沈下をすることがあるので,ダムの上にゲートなどの構造物をのせてはいけないことになっており,洪水吐の工費がかさむことがある。
ヌレーク・ダム(旧ソ連,現タジキスタン。高さ300m),マイカ・ダム(カナダ。高さ244m),オロビル・ダム(アメリカ。高さ235m),日本最初のロックフィルダムである石淵ダム(岩手県。高さ53m),御母衣ダム(岐阜県。高さ131m),高瀬ダム(長野県。高さ176m)などが著名である。
フィルダムのうち土を盛り立てて堤体としたもの。均一型の台形断面とし,全体で遮水する。地震に対する安定性に乏しく,洪水の越流に対しても弱いのであまり高いものはつくられず,高さ30m以下の小規模のものが多い。日本でもっとも高いのは相野々ダム(秋田県。40.8m)である。
→堰(せき)
ダムの主設備には,貯水のためのダム本体に加え,洪水吐,取水設備がある。
ダムには頻繁に洪水がくる。その一部を貯水池に貯留し,一部をダムから放流するという操作が行われるが,このための重要な施設が洪水吐である。この洪水吐は表面を流す越流型と水中に没した管路型に大別される。越流型には堤体表面に沿って流下するもの,滑り台のようなシュート式のもの,トンネルを利用するものなどがある。管路型は洪水調節を行うダムに設けられ,利用する水深を大きく,かつ大流量を流せるよう,低い位置に大口径のものを設け,高水圧に耐え,かつ運転性能のよい高圧ゲートを付ける。洪水吐を流れる水は,発電所の管路の水が6~7m/sの流速であるのに対して,その2~3倍の高速流であるため,水路の表面に凹凸があるとキャビテーションが起こりやすく,そのために壊れたダムもある。また洪水吐を流下する水は高い所から流れ出すため大きなエネルギーをもっているから,そのまま下流に流すと下をえぐって洗掘したりして大きな被害を出すので減勢させる必要がある。そのための工作物を減勢工といい,これには水たたきと副ダムやシルなどの組合せによって跳水を起こさせる方式,シュートからのスキージャンプによって遠くに飛散させて空気の抵抗をとり込む方式,高い所から下の池に落下させて水の衝突を利用する方式などがある。
貯水を利用するための取水設備は取水口と導水路からなり,つねに計画使用水量を取水できるようにすること,洪水,山崩れなどによる被害を受けないようにすること,保守作業が容易なことの条件を満足するようにつくる。
開水路で取水するものは,貯水位の変動の少ない低いダムに近接して設けられることが多い。堆砂の影響を受けずに取水できる位置に,洪水が浸入しないようにゲートを設置するとともに,流木,流砂,流雪の被害を受けないようにした取水口を設ける。
圧力水路の取水口は,貯水池の利用水深の変動,堆砂の影響にかかわりなく取水できるようにすることができる。つねに貯水位以下におくことが必要で,例えば発電用の取水口は導水路の直径の2倍以上の水深を確保して,空気を吸い込まないようにする。この形式は,ダム本体に直接設置したり,近接して設けることが多いが,貯水池の中に取水塔を建てることもある。水路の点検修理のため断水させたり,場合によっては流量調節をするためゲートを取り付け,その入口には流木が入らないように10~15cm間隔に鋼材を並べたスクリーンを取り付ける。貯水池の深い位置では水温が低いので,灌漑用水の場合は表面取水ゲートを設置して表面から取水し,洪水時の多量の流木,塵埃をあらかじめ止めて除去するため,ドラム缶,発泡スチロール製フロートなどをワイヤロープで連結した網場(あば)と呼ばれる流木除を設ける。
ダムには主設備のほか,管理設備や土砂吐門,魚道などの付帯施設が必要である。土砂吐門は堆砂を洪水時に放出するための設備で,低いダムでは土砂を越流させて流下させるが,高いダムの底に設けたものはあまり効果がない。魚道はアユ,マスなどの魚が上流にさかのぼっていけるように水を流すための通路であるが,ダムが高いときはその設置が困難なので,上流に稚魚を放流するのがふつうである。
このほか,発電用のダムでは取水口に続けていろいろな施設が必要である。すなわち,流込み式発電では,発電所の水圧鉄管との間に取水口に続いて流入した土砂を沈殿させる沈砂池,導水路と水圧鉄管の接合点に負荷の急変に応じさせるためのヘッドタンク,発電所停止の場合や発電所の使用水量より多い流入水を流すための余水路などが設けられる。調整池式発電のときは,調整池からサージタンクに導水する圧力導水路,発電所急停止のとき管路に発生する大きな水撃作用の緩和と負荷の増減に応じて水量の補給・貯留を行うサージタンクが設けられる。貯水池式発電では取水口から圧力管路で発電機に結ばれる。
ダムの計画はまず下流流域の洪水はんらん防止の治水計画と,都市,工業,灌漑の用水補給,発電などの利水計画との競合を調整し,流域の降水量,河川流量との関係を見て貯水池の規模を検討する。他方でダムの堤体積が小さくて貯水量が多くなる地形として,谷が狭まり上流が開いている地点をさがし,地質を調べ,ダムの可能最大規模を決める。さらにダムによって水没する家屋,農地,道路,鉄道,森林などに対する補償を検討する。このような調査を多くの地点について行い,水計画に対しもっとも経済的な地点を選定する。ダムサイトが決定されるとその地点の地形,地質,ダムの高さ,ダム材料の入手や輸送の条件を考慮してダムの形式を決める。ダムの建設費は参加する事業の経済効果に応じて負担するが,その際ダムの耐用年数は日本では洪水調節用は80年,灌漑・発電用は45年として算出する。
ダムは巨大な構造物であり膨大な投資を必要とするので,その効果が早期に発揮できるように短期間に仕上げるのがふつうである。そしていろいろな工種がふくそうするから,工事中にその一部に支障があっても工事全体に影響するので,よくバランスのとれた施工計画を立てる。ダム建設のおもな順序を示すと次のようになる。(1)工事のための地形測量,地質調査。(2)工事に必要な資材の輸送施設,電力設備,給水設備,骨材工場,バッチャープラント,クレーン,機械修理工場,倉庫,事務所,宿舎などの工事用仮設備の建設。(3)ダムサイトの上流および下流に締切りダムをつくり,この区間を流れる河川水を別に設けた仮排水トンネルなどを通して迂回させ,工事区域を干す。(4)表層の土砂や風化岩を除去して良好な岩盤を露出させるための基礎掘削。岩盤の割れ目にセメントミルクを圧入するグラウチング,断層をコンクリートで置き換えるなどの基礎処理も行う。グラウチングはすべてのダムで施工され,コンクリートダムでは上流面沿いに,フィルダムでは遮水部に沿って深い穴を並べて施工したグラウトカーテンは基礎の遮水として重要な働きをする。(5)ダム本体の施工。コンクリートダムは型枠を組み,その中にコンクリートをふつう1.5mごとの高さに打ち込んでいく。打ち込まれたコンクリートはバイブレーターで締め固めて空隙(くうげき)をなくし,強さ,水密性,耐久性を増させる。またコンクリートが固まるときに出す熱によってひび割れが生じないように人工冷却をすることもある。フィルダムの場合は設計で決められた粒径の材料をダンプトラックで運び込み,ブルドーザーで敷きならした後,完成後の圧密沈下を減らし,さらにダムの強さを増すため,十分締め固める。(6)洪水吐,取水設備,管理設備,付帯設備を完成させる。(7)竣工検査を受けて迂回させた仮排水路を閉鎖し湛水する。
ダムの建設工事ではふくそうする膨大な作業を短時間にかつ良質に施工するために,ほとんどの作業が機械化されている。また工事のやり直しができないことから,施工管理の技術も高度なものが要求される。なお,諸外国ではダムを段階にかさ上げして貯水池を大きくするよう,当初から計画して設計,施工される例があるが,日本ではすでに築造されたダムについて,洪水調節や都市用水,揚水発電などの新たな需要が生じたとき,ダムのかさ上げや貯水池周辺地山の掘削を行って貯水池を大きくするダムの再開発が行われている。
ダムでは,気象,流量の観測を行って貯水池への流入量を予測し,下流の状況を見ての洪水調節,あるいは水需要に対する利水補給を行うため,ゲート,バルブの制御がなされる。大きな河川の水系に多数のダムが設けられている場合には,洪水時にそれぞれのダムが自己の流入量を見ながら放流すると下流の洪水を大きくして災害を起こすこともあるので,ダムによる洪水調節機能を,流域全体のバランスを図って効果的に発揮させるようにするため,統合管理をすることが必要である。また,ゲートからの放流の前に,サイレンや警報車で危険区域に立ち入らせないようにするため,下流の人々に通報することも重要である。
ダム堤体や貯水池周辺の安全を確保し,諸設備をいつでも動かせる状態に保つための施設管理も欠かすことができない。万一ダムが破壊すれば下流に大惨事をもたらすので,ダムのたわみや沈下,ダム周辺からの漏水量の変化を定期的に測定し,異常が起こっているときの兆候を速やかにとらえ,軽度の補修で対処できるようにしている。またダムに流れ込む洪水に含まれる土砂は,貯水池に入ると流速が小さくなって上流端に堆砂する。その量が多いと河床が上昇して洪水が上流の集落や田畑にはんらんしたり,貯水池が堆砂によってその機能を損なうこともあるので,堆砂の防止,除去が行われる。
ダムの建設は,洪水調節,発電,水資源開発などを通して社会に大きな利益をもたらす反面,河川をせき止め人工湖に改変するものであるため,動植物の生態系などの自然環境に大きな影響を与え,集落の水没という社会的不利益を余儀なくさせる。これらの不利益について事前に予測し,その軽減策を講ずるため,環境アセスメントが行われるが,環境の要素には客観的な数量化がむずかしいものが多く,技術的に十分解明されていないものもあるので,調査,評価の方法についてさらに改善すべく努力がなされている。建設省では,ダム建設に伴う環境保全のため,河川の流水の正常な機能を維持するために必要な流量を確保して流すこと,貯水池周辺に発生する地すべりの防止,貯水池の水質対策として冷水,濁水を流さないための取水設備の設置,堆砂対策,貯水池周辺に水と緑の豊かなオープン・スペースを提供するための整備,短期的なものとして,工事中の濁水・騒音・振動・粉塵対策などを行っており,希産種植物の自生地保全対策を行った例もある。
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
河川水の貯水や流送土砂の貯留のために、河川や渓流を横断して築造される構造物。河川水を貯水するためのダムを貯水ダム、流送土砂を貯留するためのダムを砂防ダムという。貯水ダムは上水道、工業、農業、水力発電などの用水の供給や洪水調節のために築造されるが、一つの目的のために築造されるダムを専用ダム、二つ以上の目的のために築造されるダムを多目的ダムという。砂防ダムは山地や渓流から流出する土砂を貯留し、下流への土砂流出を調節するために築造される。ダムは堤体の築造材料によりコンクリートダムとフィルダムに分類される。コンクリートダムは堤体の構造により重力ダム、中空重力ダム、アーチダム、バットレスダム、マルチプルアーチダムなどに分類される。フィルダムは土、砂、礫(れき)、石、岩などでつくられ、土でつくられるダムをアースダム、おもに岩(ロック)でつくられるダムをロックフィルダムという。ロックフィルダムは遮水の方法により表面遮水壁型と内部遮水壁(コア)型(中央遮水壁型、傾斜遮水壁型)に分けられる。洪水によるダムの決壊を防止するために、ダムには洪水を流下させるための洪水吐(こうずいば)きが設置される。洪水吐きには堤体流下式、水路式、トンネル式、スキージャンプ式、自由落下式などがある。
[鮏川 登]
ダムの歴史は古く、紀元前3000年ごろにヨルダンで石と土でつくられたダム、紀元前2800年ごろにエジプトでつくられた粗石重力ダム、紀元前2000年ごろにイラクでつくられたアースダムなどが最初のダムといわれている。ローマ時代にはイタリア、スペイン、フランスなどで粗石、切石、コンクリート、モルタルなどを使った重力ダム、アーチダム、バットレスダム、マルチプルアーチダムがつくられた。ローマ時代のダムの高さを上回るアーチダムがモンゴル帝国時代の14世紀にイランで、重力ダム、バットレスダム、アーチダム、マルチプルアーチダムが17、18世紀にスペインでつくられた。19世紀後半に重力ダムやアーチダムの設計理論が提案され、それまでは経験に基づいてつくられていたダムが理論に基づいてつくられるようになった。19世紀末には、ポルトランドセメント(1824年にイギリスで発明)を用いたコンクリートがダムの建設材料として使われるようになり、コンクリート重力ダム、コンクリートアーチダムがつくられるようになった。重力ダムは大量のコンクリートを使用するので、コンクリートの使用量を減らすために20世紀初頭に鉄筋コンクリートを使用した近代的なバットレスダムとマルチプルアーチダムがアメリカ合衆国で考案された。また、アーチダムの設計理論の進歩により厚さの薄いコンクリートアーチダムがつくられるようになった。フィルダムは20世紀になると設計理論と施工法の進歩によりしだいに大規模なダムがつくられるようになった。世界では灌漑(かんがい)用水、都市用水などの供給、水力発電、舟運の改善、洪水調節などのために高さ15メートル以上のダム(貯水ダム)が約4万つくられていると推定されている。1936年にアメリカ合衆国で高さ221メートルのフーバーダム(重力式アーチダム、多目的)が建設されて以降、他の国でも発電専用や多目的のダムとして重力ダム、アーチダム、マルチプルアーチダム、アースダム、ロックフィルダムなどの大きなダムが建設されるようになり、高さが200メートル以上のダムも約45つくられている。その約55%は発電専用ダム、他は発電を含む多目的ダムである。世界でもっとも高いダムは高さ305メートルの中国の錦屏(ジンピン)第1ダム(アーチダム、2012年竣工、発電用)である。
日本においてもアースダムは灌漑用の溜池(ためいけ)の堰堤(えんてい)として古くからつくられてきた。飛鳥時代の7世紀前半に築造された大阪府の狭山(さやま)池、平安時代の821年(弘仁12)に弘法(こうぼう)大師が修築したと伝えられる、香川県の満濃池(まんのういけ)、江戸時代の1633年(寛永10)に築造された愛知県の入鹿(いるか)池の堰堤などがある。明治時代になって欧米諸国のダム技術の導入により近代的なダムが建設されるようになり、最初の重力ダム(兵庫県布引(ぬのびき)ダム、水道用)が1900年(明治33)に、バットレスダム(函館市笹流(ささながれ)ダム、水道用)が1923年(大正12)に、マルチプルアーチダム(香川県豊稔(ほうねん)池ダム、灌漑用)が1930年(昭和5)につくられた。大正時代以降発電用のダムが各地で建設された。第二次世界大戦後に最初のロックフィルダム(岐阜県小渕(こぶち)防災溜池、洪水調節用)が1952年(昭和27)に、アーチダム(島根県三成(みなり)ダム、発電用)が1953年に、中空重力ダム(静岡県井川ダム、発電用)が1957年につくられた。第二次世界大戦後に食糧の増産、電源の開発、洪水災害の軽減を主目標とした河川総合開発事業が実施され、灌漑、発電、洪水調節などを目的とする多目的ダムの建設が進められた。昭和30年代以降の産業の発展、都市人口の増加に対応して工業用水、生活用水の供給がダム建設の目的に加わった。日本のダム建設では、洪水と地震に対する安全性が課題となり、当初は安全性の高い重力ダムがほとんどであったが、設計理論、施工技術の進歩によりアーチダムやロックフィルダムも建設されるようになった。2011年版ダム年鑑(日本ダム協会)によると、日本では生活用水、工業用水、灌漑用水などの供給、水力発電、洪水調節などのために高さ15メートル以上のダム(貯水ダム)が2716つくられている。そのうち71.5%は専用ダム、28.5%は多目的ダムである。型式別のダム数は重力ダム974、中空重力ダム13、アーチダム53、バットレスダム6、マルチプルアーチダム3、アースダム1310、ロックフィルダム283、その他74である。1956年にアメリカ合衆国から大型機械施工の技術を導入して施工された高さ155.5メートルの佐久間ダム(静岡県・愛知県、発電用)の建設後、発電専用や多目的のダムとして大きなダムがつくられるようになった。日本には高さ150メートル以上のダム(重力ダム、アーチダム、ロックフィルダム)が11あり、そのうち5は発電専用ダム、6は発電を含む多目的ダムである。日本でもっとも高いダムは高さ186メートルの富山県の黒部ダム(アーチダム、1963年竣工、発電用)である。
[鮏川 登]
ダムを建設すると、家屋、農地、山林、道路、鉄道などが水没し、住民の生活環境や生態系に重大な影響を及ぼす。ダムは魚類の遡上(そじょう)、降下の妨げとなり、また河川の流況を変え、河川の生態系に影響を与える。上流から流送されてくる土砂が貯水池内に堆積(たいせき)し、貯水容量を減少させ、ダム下流への土砂輸送量が減じ、ダム下流で河床低下を生じたり、河口周辺の海岸浸食を生じたりする。貯水池の上流端に堆積した土砂は河床を上昇させ、洪水氾濫(はんらん)の危険性を増大し、周辺の土地の排水を困難にする。貯水池の富栄養化(ふえいようか)、濁水、冷水などの水質問題を生じたり、湛水(たんすい)により地すべりを誘発することもある。
ダムが決壊すると、洪水が発生し、下流で大きな被害を生ずる。19世紀以前には洪水吐きの不備のため洪水により多くのダムが壊された。20世紀以降でも洪水吐きの容量不足による洪水の越流、貯水の堤体・基礎地盤への浸透によるパイピング(堤体・地盤内にパイプ状の水の通り道ができる現象)や地震などによりフィルダムが決壊した例がある。たとえば、1976年に完成直後の最初の湛水(たんすい)時に堤体のパイピングにより決壊したアメリカ合衆国のティートンダム(シルト、砂礫(されき)、ロックからなるゾーン型のフィルダム、高さ93メートル)、1979年に洪水吐き容量の約3倍の洪水の越流により決壊したインドのモービィダム(アースダム、高さ25メートル)、2011年(平成23)の東北地方太平洋沖地震により決壊した福島県の藤沼ダム(アースダム、高さ17.5メートル、1949年竣工)などがある。コンクリートダムの被災例としては、1959年に満水時の左岸基礎地盤の崩壊によりダムの半分が決壊したフランスのマルパッセダム(アーチダム、高さ66.5メートル、1954年竣工)、1963年に貯水池の左岸で発生した地すべりにより大量の土砂が貯水池に流入して生じた津波がダムを越えて流下する際にダムの取付け部の地山が削られ、ダムの機能を果たせなくなったイタリアのバイオントダム(アーチダム、高さ262メートル、1960年竣工。ダム堤体はほとんど損傷を受けなかった)、1999年の集集地震で堤体の一部が倒壊した台湾の石岡(シーカン)ダム(重力ダム、高さ25メートル、1977年竣工)などがある。
[鮏川 登]
『日本ダム協会編・刊『ダム年鑑』各年版』
デンマークの生化学者。1923年よりコペンハーゲン大学に勤め、1929年教授となる。同年、脂質含量の低い餌(えさ)で飼育したニワトリは体の各部に出血傾向があり、その血液には明らかな凝固時間の延長が認められることをみいだした。ダムは、これは未知の微量栄養素の欠乏によると考え、この物質をビタミンKと名づけた。Kは凝固Koagulation(ドイツ語)のKである。1939年、P・カラーとともに、ムラサキウマゴヤシ(アルファルファの一種)からビタミンK1を単離することに成功した。K1は同じ年にE・A・ドイジーによっても得られた。その後ダムはK1の性質の解明、生理作用、医薬品としての応用面などを研究し、ドイジーとともに1943年のノーベル医学生理学賞を受賞した。ビタミンE、脂肪、コレステロールなどの研究もある。
[石館三枝子]
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…ハードウェアそのものの構造物から,むしろソフトウェアとして行為に重点のある開発まで,土木技術の対象は非常に幅が広いというべきであろう。 構造物のおもなものとしては橋,トンネル,ダム,基礎構造物があげられる。橋は地形,人工の障害を克服する一つの手段であり,道路橋,鉄道橋ばかりでなく,水道橋をはじめ種々の管路のための橋もある。…
…ダムの貯水,深井戸への大量の水の注入,地下核実験など人間の行為が引金となって発生する地震。地殻の構造や応力などが地震が起こりうる状態に近くなっているとき,これら人為的作用がその発生を促進するため起こるものと考えられる。…
※「ダム」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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