改訂新版 世界大百科事典 の解説
世帯単位の原則・個人単位の原則 (せたいたんいのげんそくこじんたんいのげんそく)
社会保障では,扶助や給付の方法として対象を世帯としてとらえる場合と個人としてとらえる場合とがある。国民の生活が実際に世帯を単位に営まれている以上,生活の必要度も世帯構成に応じて考えるのが妥当である。たとえば最低生活の保障を目的とする公的扶助のように,一般に対象者の必要度を重視する無拠出制の給付は世帯単位の原則を用いる。一定年齢以上の老人に支給される無拠出制の基礎年金なども,夫婦の年金額は単身者の1.5倍程度に設定されるのが一般である。
しかしこのような給付方式は,同じように共同生活をする成人でも,夫婦の場合と親子,兄弟姉妹,婚姻関係のない男女等の間で取扱いに差が生まれるなど,世帯形態が多様化した今日では問題も少なくない。特に拠出を条件とする年金保険では,世帯単位の給付設定では,共働き夫婦が増加するに伴いその年金が高額になりすぎたり,拠出時点での被扶養者と給付時点での被扶養者が違うような場合に,拠出時点での被扶養者は年金給付の利益が得られないなど,解決すべき問題も多くなっていた。日本では,自営業者などを対象とする国民年金は,発足当初から個人単位で運営され,夫婦それぞれが年金に加入し,保険料を払い,自分の年金を得る形になっていたが,公務員やサラリーマンなどの被用者年金は世帯単位で運営され,退職前に離婚した専業主婦などは年金が得られなかった。こうした問題に対処するため,1985年の年金制度の再編改革では,被用者もその専業主婦もすべてが国民年金に個人名義で加入することに改め,これを全国民の基礎年金と位置づけ,厚生年金などの被用者年金は,これに上乗せする所得比例の付加年金に限定することになった。この改革で,基礎年金に関しては,全国民に個人単位の原則が適用されるようになり,上に述べたような問題もかなり是正されるようになっている。
執筆者:一圓 光弥
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報