公務員(読み)コウムイン

デジタル大辞泉 「公務員」の意味・読み・例文・類語

こうむ‐いん〔‐ヰン〕【公務員】

国または地方公共団体の公務を担当する者。国家公務員地方公務員、また特別職一般職とに分けられる。
[類語]役人官吏官員吏員公僕国家公務員地方公務員武官文官事務官公吏官公吏官僚能吏小役人属官属僚税吏獄吏キャリアノンキャリア

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精選版 日本国語大辞典 「公務員」の意味・読み・例文・類語

こうむ‐いん‥ヰン【公務員】

  1. 〘 名詞 〙 国または地方公共団体の公務に従事する者。国家公務員法地方公務員法が適用される一般職の職員のほか、国会議員、裁判官、地方議会の議員などの特別職も含む官公吏。明治憲法下においては天皇の官吏とされたが、現行憲法下においては国民の公僕とされる。
    1. [初出の実例]「本法に於て公務員と称するは官吏、公吏、法令に依り公務に従事する議員、委員其他の職員を謂ふ」(出典:刑法(明治四〇年)(1907)七条)

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改訂新版 世界大百科事典 「公務員」の意味・わかりやすい解説

公務員 (こうむいん)

大日本帝国憲法下では,官吏,公吏などの言葉が使われていたが,国民主権の日本国憲法下では,国民の公僕という意味をこめて公務員という言葉が主として使われるようになった。

 実定法上,最も広い意味では,国または地方公共団体の公務に従事するすべての者をさす。したがって,広く国会議員や地方議会の議員も含まれる(日本国憲法15条2項に規定された公務員)。しかし,一般的に公務員という場合には,公選による議員を除いたそれ以外の公務を担当する職員をさす。さらに狭義には,国家公務員法または地方公務員法が適用される,いわゆる一般職の職員だけをさすことが多い(公務員の実定法上の語義や種類については後に詳説)。英語でこの言葉に該当するcivil serviceは,イギリス支配下のインド行政ではじめて使用され,その後イギリス国内に公開競争試験の原則が導入される過程で一般的に使用されるようになった。こうしてこの言葉は,軍人,司法官を除いて,国家に専門的資格で勤務する職員をさすことになった。しかしアメリカでは地方自治体の職員も含めてこの言葉を使用する場合もあり,必ずしもその範囲は確定していない。

さて,近代的公務員制度の歴史は,君主に対する勤務者royal serviceから国民全体に奉仕するものpublic serviceへの漸次的発展であるとされている。このことは絶対王政が中央集権的・専門的官僚制の基礎を設定したプロイセンとフランスで最も顕著に現れた。ドイツとくにプロイセンは官吏制度の母国といわれるように,17世紀中ごろ,30年戦争(1618-48)の廃墟の中から官吏制度が建設され,18世紀末葉のプロイセン一般ラント法典の中で,試験任用制度に関する体系的規定が設けられた。それと同時に,君主に代表される国家に対する官吏の絶対的忠誠と厳格な服務規定が設けられ,また官吏は君主の代理人として,一般国民に対して特権的身分をもっていた。

 フランスにおいても,官吏制度は絶対王政のもとで樹立されたが,1789年のフランス大革命によって絶対王政は打倒され,その後,ナポレオンの行政改革によって官吏制度は再編成された。しかしその特質は,中央集権的で,階統制的であった。こうしてドイツとフランスは,相違点を持ち,その後立憲化の方向へ変化したにもかかわらず,ともにヨーロッパ大陸型として分類される官僚優位の体制を代表するものであった。

 他方,イギリスは公務員制度のもう一つのパターンを発展させた。そこでは王権に対する議会の争いが財政権のみならず,人事権についても激しく行われ,さまざまな形の情実任用patronageが19世紀半ばまで支配していた。

 しかし,19世紀半ばになると資本主義の発展は,複雑な社会・経済問題を生み出し,いっそう能率的な行政機構を必要とした。他方,選挙権の拡大とともに,情実任用による選挙区の培養も不可能となり,また官界の腐敗や無能官吏に対する世論の批判も高まってきた。こうしてノースコートとトレベリアンの報告に基づいて,1855年に人事委員会が設立され,70年には公開競争試験制度が全面的に実施され成績主義(メリット・システムmerit system)の原則が確立された。この改革によってもたらされた公務員制度の構造は,当時イギリスの支配下にあったインドの公務員制度にならったもので,二つのクラスに区分されていた。一つは高級の知能的政策形成クラスであり,もう一つは機械的職務に限定された下級クラスであった。その後の改革を経て,教育体系と任用制度をリンクさせるクラス制度は整備されていくが,とくにトップの行政クラスは,オックスフォードケンブリッジの両大学で古典的一般教養を修めた人々によって圧倒的に占められた。このようにイギリスを含んだヨーロッパ諸国では,教育体系とリンクして,若い時期に公務員を採用し,昇進させていく制度が発展していった。

 これに対して,アメリカ合衆国では,公務員への採用のチャンスは,すべてのレベルで開放されており,職務に関連した専門的能力が要求されるところに特色があった。もともとアメリカの公務員制度の基本的性格は,猟官制度spoils systemの支配であった。大統領選挙に勝利を占めた政党がすべての官職を獲物として独占するという制度は,1829年に就任したジャクソン大統領のもとで本格的に展開されたが,その背景にはこの国に特有の厳格な権力分立主義の統治構造と〈政府の仕事は普通の知能ある者ならばだれでもできる〉というジャクソン大統領の言葉に代表されるような民主的行政の理念およびそれを可能にした社会経済的条件があった。しかし資本主義の発展と政党政治の金権化や行政の専門的機能の拡大とともに,猟官制は非能率と腐敗の代名詞となり,成績主義に基づく競争試験制度が導入されるに至った(1883年のペンドルトン法)。

 この公務員法は,イギリス公務員制度によって影響をうけたが,上院によってアメリカ独特の性格をもつよう修正された。第1に上院は公務員試験が実際的性格をもつことを要求した。この実際的な採用試験を行うためには,まずどんな職務であるかを知る必要があったので,この試験は,その後に詳細な職階制position classificationが作成される基礎を提供した。第2に上院は,最低グレードでのみ連邦行政に採用されるという要件を削除したので,開かれた公務員制度になった。第3にイギリスと異なり公務と大学の間には特別のリンクは存在しなかった。またヨーロッパ諸国のように,特別の高級公務員団を設立しなかった。その後,科学的管理法の影響のもとでより積極的な近代的人事行政も展開され,採用の基準は,職階制に基づく特定ポストの職務を処理する資格,能力におかれてきた。

 しかしニューディールおよび第2次大戦以降の行政機能の拡大のもとで,アメリカの伝統も修正を迫られ,より有能な管理者を養成する必要が生じた。こうして今日,成績主義を漸次高級官職にまで拡大し生涯職制(キャリア・システムcareer system)を確立するための諸方策がとられている。最近の注目すべき実例は,カーター政権下の上級幹部公務員制度senior executive serviceの創設である。これは約9000人の生涯職と非生涯職の高級公務員からなっているが,その任用,給与を個人の能力と実績に基づいて決定する方式をとっており,従来の官職中心の方式を修正している。

日本の官吏制度は,明治憲法の制定と国会開設に備えて,明治中期より整備されていった。明治憲法下における官吏制度を規定するものは,明治憲法10条の天皇の官制大権と任官大権に基づき議会の協賛を必要としない勅令によって制定された文官任用令,文官分限令,官吏服務紀律等であった。こうして官吏は天皇への忠誠観念によって義務づけられた天皇の使用人であった。しかし〈天皇の官吏〉であることは同時に,一般国民に対して特権的支配者として身分的優越性をもたらした。この身分的関係は官僚制度内部にも反映し,そこで職務上の命令と服従の体系からくる官吏の上下関係が,忠誠と名誉の体系としての身分制的上下関係と重なりあっていた。すなわち国の機関に勤務する職員は,公法上の義務を負う官吏と,私法上の雇用関係に立つ非官吏(雇員,傭人等)に大別されていたが,官吏制度の内部にも,天皇による任命形式によって親任官(天皇が親書によって叙任する官吏),勅任官(天皇の勅令によって任用する官吏で広義では親任官を含むが,狭義では親任官を含まない),奏任官(長官の奏薦により勅裁を経て任用される官吏),判任官(有資格者の中から各省大臣,府県知事等の長官の権限で任用される官吏)と区別され,さらに勅任官は高等官1等から2等,奏任官は高等官3等から9等,判任官は1等から4等に分かれていた。文官と技官との間にも区別があり,宮中礼遇や叙位,叙勲を通じて身分的関係は強化されていた。

 任用についても,1887年に〈文官試験試補及見習規則〉が公布され,翌年には奏任官には高等試験,判任官には普通試験が初めて実施された。前者では帝国大学卒業生には無試験で奏任官試補に任用される特権が認められていた。やがて議会が開設されると,野党の非難を免れるために,93年に〈文官任用令〉〈文官試験規則〉が公布され,これ以後,高等官試験の合格者のみが奏任官に任用されることになった。しかし予備試験の免除と帝国大学教授のみに限られた試験委員制,さらに法律知識中心の試験のため,事実上,帝国大学(とくに東京帝国大学)法学部出身者が圧倒的に多く合格したので,学閥を強めることになった。彼らは採用時から幹部要員として計画的に育成され,非エリートと区別されていた。

戦後,新しい憲法のもとで国民主権の原理が採用され,公務員制度の大改革も行われるに至った。すなわち日本国憲法15条には〈公務員を選定し,及びこれを罷免することは,国民固有の権利である。すべての公務員は,全体の奉仕者であって,一部の奉仕者ではない〉と規定され,公務員は国民の公僕であり,全体の奉仕者であるとされた。この憲法に基づき1947年10月に国家公務員法が公布されたが,このこと自体,ある意味で官吏制度の民主化を表すものであった。なぜなら官吏制度を規律する規範が,国民の代表機関である議会によって制定される〈法律〉という形式で表されることは戦前にはなかったからである。

 この最初の国家公務員法では,公務員弾劾制度が全官公庁労働組合連合の強い要望で定められていた。これは憲法で認められた公務員を罷免する権利を具体化する方法をうち立てようとするものであった(のちに廃止)。また,国家公務員法はすべての官職を一般職と特別職に分かち,この法律の適用をうけるものを一般職,適用をうけないものを特別職とした。政策決定上重要な地位を占めている各省次官なども特別職に含まれ,身分保障から外されることになったので,旧来の官僚制の民主化に貢献することが期待された。

 さらに,〈科学的人事行政〉の導入により,公務の民主的・能率的運営が図られた。前述のように,戦前の官吏制度は,天皇に対する忠順義務のもとに国民に対しては特権的身分であり,また官吏制度内部には身分的階層制をもち非民主的性格が強かった。また任用における学閥的傾向,服務における公・私の未分離,公務運営の非科学的・非能率的傾向も強かった。このような官吏制度の改革のため,たとえば,(1)戦前の高等文官試験を廃止し,公務員の任免については,能力の実証に基づく成績本位の原則によること。(2)試験および任免・研修ならびにこれらに関連する諸部門における人事行政の運営に資するために,アメリカで発達した職階制を確立することを目ざしていた。(3)戦前の各省ごとの割拠的人事行政を改革し,統一的な人事行政を実施するための中央人事行政機関としての人事委員会の設置等が図られた。

 他方,高級公務員と下級公務員の間の身分制を廃止し,給与その他の著しい差別を除去するために種々の規定が設けられ,給与は法律で定めた給与準則に付加した俸給表によることになった。また警察と消防職員,国家の機密に関与するもの,その他の特殊の職員を除いて一般の公務員も労働者なみの団結権,団体交渉権を与えられ,現業員は罷業権も認められた。そこで官公庁労働組合が強力な活動を行い,官庁民主化運動が盛り上がった。さらに政治活動についても大幅な自由が存在していた。しかし国家公務員法は,公布後9ヵ月経ってようやく実施されたが,その3週間後には,全官公労組の闘争が激化して,争議に突入する形勢を示すに至った。そこでアメリカ占領軍の最高司令官は,いわゆるマッカーサー書簡を発し,これをうけて芦田内閣は1948年7月,政令201号によって公務員の争議行為と労働協約の締結を目的とする団体交渉を全面的に否定し,従来の労働協約を無効とした。またそれに引き続き,改正国家公務員法が国会の十分な審議を経ることなく48年に成立した。これによって労働組合法,労働関係調整法,労働基準法その他関係法は一般職の国家公務員には適用されないことになり(同法付則16条),国家公務員に関する勤務関係は,国家公務員法,人事院規則人事院指令を中心として規律されることになった。

 この国家公務員法改正の主要な点は,次の3点である。(1)人事委員会を人事院と改め,その組織および権限を強化したこと,(2)公務員の労働基本権を大幅に制限し,政治活動の自由も厳しく制限したこと,(3)特別職の範囲を縮小したこと(たとえば事務次官は一般職とされた)等であった。こうして,人事院は労働基本権剝奪の代償として,政府に対して給与勧告を行い,公務員の不利益処分の審査を行う機能ももつようになった。しかし人事院が導入しようとした職階制の採用は労使双方からの反対にあって,いまだ官職の職種および職級への格づけがなされておらず,ただ給与に関してのみ職階制的扱いが導入されているにすぎない。

ところで戦後の任用制度についてみると,採用は公開平等の競争試験によることになり,国家公務員法による試験は1949年から実施されている(公務員試験)。しかし今日でも,Ⅰ種(旧上級)試験に合格し,本省庁に採用されたものが将来の幹部要員として特権的に扱われており,彼らはキャリア組と称され,Ⅱ種(旧中級)およびⅢ種(旧初級)の合格者のいわゆるノン・キャリア組と昇進のスピード,最終ポスト等において区別されている。こうして昇任については,試験は実施されず,選考によって主として学歴と年功序列によって行われている。しかしⅠ種もⅡ種も大卒程度の能力を有するものを採用するための試験であり,Ⅲ種試験にも大卒者が進出している高学歴化の状況のもとでは,いわゆるノン・キャリアの昇進の機会を拡大する方策が求められている。また労働基本権の厳しい規制や政治活動の一律的規制の再検討も長年論議されてきたことである。さらに公務員の退職については,60歳定年制の昭和60年度から実施されているが,高級公務員の〈天下り〉規制の問題は十分に取り組まれていない。

 このように戦後30余年を経て,日本の公務員制度は多くの課題に直面しており,第2次臨時行政調査会も,公務員制度を重要テーマとしてとりあげた。しかし財政危機の状況のもとで,人件費の抑制に強い関心が示され,給与制度の見直しと人事管理の一元化の提言が中心となり,必ずしも全面的な改革提案とはなっていない。また人事院も79年から公務員制度の見直しを始めたが,最初は,高学歴社会の進行,行政の複雑化など公務員をとりまく環境条件への対応が中心であった。しかしその後公務員の給与の抑制が求められ,昭和57年度の人事院勧告の凍結というような事態のもとで,公務員に対する批判にこたえるためにも制度改革に取り組まざるをえなかった。こうして,人事院は83年5月〈人事行政に関する改定施策案概要〉を発表したが,その中心点は,国家公務員の任用制度の改定,昇給制度の手直しであり,(1)たとえば現在4種類の主要採用試験を3種類に整理すること(1989年,上記のようにⅠ種・Ⅱ種・Ⅲ種と改められた),(2)昇任資格基準を明確化し,能力評価の比重を高め,いわゆるノン・キャリア組の登用を図る等が提案された。

 なお,諸外国でも今日,公務員制度の改革は行政改革の重要なテーマとなっている。たとえば,イギリスでは1968年のフルトン報告以来,公務員制度改革が重要課題となり,種々の改革が提案され,一部は実施に移された。しかしその後,サッチャー政権のもとでは,もっぱら公共支出の抑制とそのための人件費削減に重点が移行し,フルトン報告によって行政改革を推進するために設立された公務員省も,81年には廃止されるに至った。またアメリカでは,1978年カーター政権のもとで,公務員制度の大改革が行われ,100年近い歴史をもつ人事委員会も分割,解体された。また前述のように上級幹部公務員制度の創設が注目されたが,これもレーガン政権のもとで,財政削減の影響もうけてその運営が当初のねらいどおりに進んでいない等の問題をはらんでいるようである。このように各国とも社会の変化に対応する公務員制度のあり方が問われ,種々の改革が試みられているが,財政危機の進行は問題をいっそう切迫させており,減量化・効率化の方向に重点がおかれている。しかしこのような短期的視野にとどまらず,中長期的な展望に立って,国民のニーズに応えうる公務員制度の確立が求められている。
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公務員は,国家公務員と地方公務員に大別できる。国が任命し(実際には任命権者は各行政庁の長であることが多い。国家公務員法55条),国の公務に従事するのが前者であり,地方公共団体が任命し(地方公共団体においても任命権者は多元的に存在する。地方公務員法6条),地方公共団体の公務に従事するのが後者である。注意を要するのは,国の公務に従事しているか,地方公共団体のそれに従事しているかだけによって両者の区別はできないことである。地方公務員であっても,国の公務である機関委任事務の執行にたずさわっている場合もあるからである。

 公務員は,また,一般職と特別職に分けられる。両者の区別は,必ずしも理論的なものではないが,公務の内容や任命ないし就任の方式によって分けられているのが実情である。国会や地方議会の議員(それぞれの最高意思決定に参画するという職務の特質と,公選されるという就任の特質に基づく),内閣総理大臣,国務大臣,政務次官,人事官,裁判官(職務の特質に基づく)などがその例である(国家公務員法2条,地方公務員法3条参照)。特別職の公務員は政治に従事するという意味で〈政治的公務員〉とでも称すべきものが多い。

 また,現行公務員制度の下では,とくに国家公務員の場合,公務員が特権官僚(上層公務員)と非特権官僚(下層公務員)に階層分化しているのが現実である。前者は,上級職として採用され,研修,昇進などの点と職務の点(企画・立案,許認可など,公権力の行使の中枢を担っている)で特権的地位を占め,さらに退職後も特権的地位が天下りの形で保障されている場合が多い。ここに,公務員制度の病理現象である官界と財界の癒着の萌芽がみられる。

現行憲法下の公務員の法的特色は,だれに対して奉仕するのかという点(忠誠義務の対象=〈全体の奉仕者性〉)と,任命権者はだれか(理念的にではあるが国民による任命,憲法15条)の2点に顕著にみられる。大日本帝国憲法の下では,官吏は天皇の官吏として,天皇によって任命(任官大権,大日本帝国憲法10条)され,〈天皇陛下及ビ天皇陛下ノ政府ニ対シ忠順勤勉ヲ主トシ法律命令ニ従ヒ各職務ヲ尽スベシ〉(官吏服務紀律1条)とされていた。また,公務員制度の編成権も天皇にゆだねられていた(官制大権,大日本帝国憲法10条)。これに対し,現行憲法下の公務員は,国民〈全体の奉仕者〉(日本国憲法15条2項)であり,〈公務員を選定し,及びこれを罷免することは,国民固有の権利である〉(15条1項)とされている。このこととの関連で,公務員制度の編成も法律事項とされて,基本的には国民代表議会(国会)の統制下におかれている(73条4号参照)。主権が国民に帰属し,〈国政は,国民の厳粛な信託によるものであって,その権威は国民に由来し,その権力は国民の代表者がこれを行使し,その福利は国民がこれを享受する〉(日本国憲法前文)とする現行憲法の理念を公務員ないし公務員制度に反映したものである。

公務員たる地位は広く国民に門戸が開かれ,国民は平等に競争試験や選考を経て公務につくことができる(国家公務員法27条,地方公務員法13条参照)。ただし,(1)禁治産者および準禁治産者,(2)禁錮以上の刑に処せられその執行を終わるまでまたは執行を受けることがなくなるまでの者,(3)懲戒免職処分を受けてから2年を経過しない者,あるいは,(4)日本国憲法またはその下に成立した政府を暴力で破壊することを主張する政党その他の団体を結成し,またはこれに加入した者等は,公務員となることができない(国家公務員法38条,地方公務員法16条)。

 任用とは,広義では,採用,昇任,降任および転任を含むが,狭義では,採用をさす。任用は,受験成績,勤務成績その他の能力の実証に基づいて行われなければならないとされ(国家公務員法36条,地方公務員法15条),現行公務員法は,人事管理の客観性の確保に意を用いている。任用をはじめとした公務員の勤務関係の法的性質(とくに任命の法的性質)をめぐっては見解の分かれるところである。(1)特別権力関係論を前提にした同意に基づく行政行為説,(2)公法契約説および(3)労働契約説がそれである。伝統的行政法学説によれば,(1)説が通説であったが,今日では,(1)説は,19世紀的立憲君主制下の官吏制度の下でのみ成立しうるものであって,近代的民主主義的国民主権国家のもとでは,承認しえないとする見解がしだいに有力になり,(2)および(3)説が支配的になりつつある。(2)(3)両説は,公務員の任用を契約として理解しようとする点では共通しているが,(3)説が公務員の勤務関係と民間企業従事者の勤務関係の同質性を強調するのに対し,(2)説は公務の特質や公務員の法的地位の特質などを強く意識した見解である点が異なっている。公務員の任用を一種の契約と解するとしても,やはり,公務の特質から公務員には民間労働者にはない義務や責任が実定法(公務員法)によって課せられ,規制されていることを考えれば,(2)説が妥当な見解と思われる。

公務員は,〈全体の奉仕者〉たるべきであることから,服務の根本基準として,〈すべて職員は,国民全体の奉仕者として,公共の利益のために勤務し,かつ,職務の遂行に当たっては,全力をあげてこれに専念しなければならない〉(国家公務員法96条1項。地方公務員法30条も同趣旨)とされ,〈職員は,……その勤務時間及び職務上の注意力のすべてをその職責遂行のために用い,政府がなすべき責任を有する職務にのみ従事しなければならない〉(国家公務員法101条。地方公務員法35条も同趣旨)とされている。これが公務員の職務専念義務である。公務員は,このほか,いろいろな職務上の義務を負い,その職務の公共性等からいくつかの市民としての権利の制限を受けている。

 職務上の義務のなかで重要なものとしては,まず法令遵守義務および上司の職務上の命令に服従する義務(国家公務員法98条1項,地方公務員法32条,日本国憲法99条)がある。すべての公務員は,憲法尊重擁護義務(日本国憲法99条)を負い,行政は,法に基づいて行われることが法治国家の基本的原理であることから,公務員に法令遵守義務が課せられているのである。公権力の行使が恣意的に行われることとなれば,国民の権利利益の保護は危うくなるからである。また,国または地方公共団体は,それぞれ一つの組織体として行政運営を行う。組織体である以上,その意思の一体性や体系性は不可欠である。しかも,公務の遂行を行うことから,公正・適正かつ平等な行政運営が求められるとともに,行政の責任も明確でなければならない。これらの点を保障するものの一つが,上司の職務上の命令に従う義務である。この義務は,戦前の官吏制度の下では,無制限・無制約なものであった。しかし,現行公務員制度の下では,必ずしも無制限・無制約なものではない。近代的公務員制度の下では,上司と部下の関係は公務員の人格的自由を前提にして(市民的自由の考慮)成立していることから,身分的上下関係ではなく職務上の上下関係として位置づけられているにすぎないからである。それゆえ,職務命令が適法であるためには,(1)権限ある上司が発し,(2)それが受命者の職務に関するものであって,(3)法律上も事実上も可能なものでなければならない。

 つぎに,公務員は,職務上の秘密や職務上知り得た秘密を漏らすことは許されない(守秘義務。国家公務員法100条,地方公務員法34条)。行政上の情報のなかには個人のプライバシーに関するものもあり,また,公務運営上守秘しておくべきものもあるからである。問題は何が秘密に該当するかである。秘密のとらえ方については,形式説と実質説がある。前者は,内容を問わず所掌権限者が秘密と認定したものが秘密であるとする見解であり,従来の通説であった。しかし,情報公開や行政をガラスばりにして透明度の高い行政運営を行うべきだとする国民の要求などと関連して,近時の判例・学説では実質説(秘密にするだけの実質的,合理的,客観的理由があるか否かによって判断する見解)が通説・判例である(この見解に立つ判例としては,1977年12月19日の最高裁決定等がある)。

 職務の公共性,行政の中立性,あるいは行政の継続性を確保するために,公務員の権利に各種の制約が加えられている場合がある。労働基本権の制約や政治的行為の禁止などがそれである。論者によっては,このような制約を公務員の義務の一つとして位置づけている。まず,労働基本権(団結権,団体交渉権,争議権)の制約についてである。防衛庁,警察,海上保安庁,監獄,消防の各職員については労働基本権がいっさい認められていない(国家公務員法108条の2-5項,自衛隊法64条等)。その他の公務員の場合,現業・非現業を問わず,団結権は認められているが,争議権は否認されている(国家公務員法98条2項,地方公務員法37条,国営企業労働関係法17条1項,地方公営企業労働関係法11条1項等)。団体交渉権については,一応認められてはいるが,労働協約締結が認められているグループ(国営企業労働関係法8条,地方公営企業労働関係法7条)と,書面協定の締結が認められているにすぎないグループ(国家公務員法108条の5,地方公務員法55条)に分けられる。問題は,憲法28条が勤労者に広く労働基本権を保障し,しかも,公務員もそこでいう勤労者であることは判例の等しく認めているところであることとの関連で,なにゆえ争議権の否認が合憲的に認めうるかである。この点のリーディングケースである全農林警職法事件判決(1973年最高裁判決)は,争議権の否認を〈職務の公共性〉〈公務員の地位の特殊性〉(主要な勤務条件が法定され,身分が保障されていること),あるいは〈財政民主主義〉(公務員の給与は公財政によってまかなわれるものであり,それゆえその労働条件は労使自治によって決められるのではなく,議会の財政的コントロールを受けること)などによって合憲的に肯定しうるとしている。当初最高裁は憲法13条にいう〈公共の福祉〉や憲法15条にいう〈全体の奉仕者〉を理由に争議権の一般的否認を合憲としていたが,全逓(東京)中郵事件に関する1966年の最高裁判決は,公務員の労働基本権を最大限に尊重する立場を示し,その制限は国民生活全体の利益との比較衡量による内在的制約としてのみ認められるものとした。そして労働基本権の制限は必要最小限度でなければならず,違反者に対する刑事制裁(国家公務員法110条1項17号,地方公務員法61条4号)も必要やむをえない場合に限られる等の基準を示した(直接には現業国家公務員について)。その後この判旨は,非現業地方公務員に関する都教組事件,非現業国家公務員に関する全司法仙台事件に関する最高裁判決(ともに1969)で踏襲されたが,73年にいたり前述の全農林警職法事件で最高裁は判例を変更し,公務員(直接には非現業国家公務員)につき刑罰による争議行為の一律禁止を合憲とした。最高裁は岩手教組学テ事件判決(1976)と名古屋中郵事件判決(1977)を通じてこの考え方が公務員一般にまで及ぶことを判示した。

 なお,国営企業労働関係法(国企労法と略す)の対象となっている現業の国家公務員については労働組合法が適用され,労働争議解決のために中央労働委員会(委員会制)による斡旋,調停,仲裁の制度が設けられている。同様に,地方公営企業労働関係法の対象となる地方公営企業の地方公務員の場合は地方労働委員会による調停,仲裁の制度が設けられている。

 政治的行為の制限については,国家公務員法が,職員は〈政党または政治的目的のために,寄付金その他の利益を求め,もしくは受領し,またはなんらの方法をもってするを問わず,これらの行為に関与し,あるいは選挙権の行使を除くほか,人事院規則で定める政治的行為をしてはならない〉(102条1項)としているほか,地方公務員法36条も職員の政治的行為を厳しく制限しており,公務員の政治的中立性を確保せんとしている。行政が,特定の政党や特定の階層などによって政治的に支配されることとなれば,全体の奉仕者性は崩壊するとの理由からである。学説や多くの訴訟等において,現行法による制限が一律的で広範にすぎること,政治的行為の内容を,国家公務員の場合,広範に人事院規則に委ねていること等,違憲の疑いがあるとの主張がなされたが,最高裁は74年の猿払事件判決等において現行規定が憲法14条(法の下の平等)や21条(表現の自由)に違反しないとしている。

公務員の権利は,分限上の権利,経済的権利,および保障請求権に大別できる。分限上の権利というのは,公務員がその身分を保障され,その職務遂行を行いうる権利である。公務員は,法令の定める事由によらない限りその意に反して免職,休職および降任(国家公務員法75条,地方公務員法27条以下)されないこととされている。これが身分保障の意義である。さらに,不利益処分に対しては,人事院(地方の場合は人事委員会または公平委員会)に対する不服申立制度があり(公平審理),さらに裁判所へ出訴しうるものもある(以上を保障請求権という)。

 経済的権利としては,労働の対価として有する給与請求権,公務員という特殊な身分に基づいて与えられる恩給請求権などがある。さらに,公務傷害に対する補償などもこれに含まれる。

公務員の責任としては,分限および懲戒責任と国庫への賠償責任がある。懲戒責任は,公務員の義務違反に対して行われる制裁である。懲戒事由としては,法令違反,職務上の義務違反または職務を怠った場合,および全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあった場合である(国家公務員法82条,地方公務員法29条)。懲戒の種類は,免職,停職,減給,戒告(国家公務員法82条等,地方公務員法29条)である。懲戒処分を行うか否か,いかなる処分を行うかは,任命権者の裁量にゆだねられているが,この裁量権の行使が権限を踰越(ゆえつ)したり濫用(処分事由の不存在,平等原則・比例原則違反,他事考慮など)にわたれば違法となる。

 分限処分は,もっぱら公務能率の確保や服務紀律維持の観点から行われる。処分事由としては,(1)勤務実績がよくない場合,(2)心身の故障のため,職務の遂行に支障があり,またはこれに耐ええない場合,および(3)その官職に必要な適格性が欠如している場合である(国家公務員法78条,地方公務員法28条)。処分の種類としては,免職,降任,休職および降給(地方公務員法27条2項)がある。

 分限および懲戒処分は,その意に反する不利益処分であることから,その救済手続として,国家公務員の場合は人事院に対して,地方公務員の場合は人事委員会または公平委員会に対して,不服申立てを行うことが認められている。

 公務員の賠償責任は,公務員が国または地方公共団体に対して財産上の損害を与えた場合に発生する。いわゆる公務員の公法上の賠償責任である。国家公務員については,三つある(地方公務員については,地方自治法243条の2など参照)。(1)出納官吏の弁償責任,(2)物品管理職員の弁償責任,および(3)予算執行職員の弁償責任である。(1)は,その保管にかかわる現金,物品を亡失,毀損した場合において善良な管理者としての注意を怠った場合に発生する(会計法41条以下)。(2)は,物品管理者,物品出納官,物品供用官等,いわゆる物品管理職員が,故意または重大な過失によって,物品管理法の規定に違反して,物品の取得,処分,保管などを行ったことにより,物品を亡失したり損傷したりして,国に損害を与えた場合に発生する(物品管理法31条以下)。(3)は,予算執行職員が,故意または重過失によって,違法に公金を支出し,国に損害を与えた場合に発生する。

 そのほか,国家賠償法に基づき,公務員の賠償責任が発生することがある。すなわち,国家賠償法1条にいう公権力の行使によって発生した国または地方公共団体の損害賠償責任につき,その損害が当該公務員の故意または重大な過失によって発生したものであるときは,国または公共団体は,その公務員に対して求償権を行使しうることとなっているからである(国家賠償法1条2項)。

 地方公務員については,地方自治法上特殊な賠償責任が発生することがある。それは住民訴訟をめぐってである。すなわち,違法な公金の支出をめぐって,住民がその損害賠償請求を行う場合,その支出行為を行った職員自体を相手にすることができることとなっているからである(地方自治法242条の2)。
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第2次大戦後,労働組合法(1945公布)によって,警察官,消防士,監獄勤務者を除く一般官公吏には,団結権が認められた。1946年公布の労働関係調整法によって,現業以外の行政・司法の官公庁職員は争議権を否認されたが,現業職員は争議権も認められていた。47年10月の国家公務員法公布後も公務員には引き続き労働三法が適用され,非現業公務員は団体交渉権,現業公務員は団体交渉権および争議権を有していた。このため,47年の二・一ストから翌年夏にかけて,官公労働者は労働運動の中心勢力となった。

 48年7月22日,マッカーサー元帥の芦田首相あて書簡が発せられ,政府はこれを受けて,7月31日,政令201号を公布施行し,国および地方公務員の争議権,団体交渉権を否認した。また,国鉄および専売の事業は,49年6月,公共企業体に改組され,その職員は,争議権を否認された。その後,52年の法改正で日本電信電話公社および五現業(郵政,印刷,造幣,林野およびアルコール専売)の職員も公共企業体等労働関係法(公労法。1986年,国営企業労働関係法に改正)の適用を受けることになった。

 政府,地方自治体,公企体等の職員団体はその後,総評結成の流れのなかで,49年12月,日本官公庁労働組合協議会(官公労)に結集したが,社会党色の強い公企体労組と共産党色の濃い国家公務員諸組合との対立から前者が53年11月公労協を結成したため官公労は弱体化し,58年8月に解消した。その後,60年2月に国公共闘と地公共闘とによって日本公務員労働組合共闘会議(公務員共闘)が結成された。75年10月,総評反主流派(共産党系)の国公共闘は,国家公務員労働組合連合会(国公労連)として新発足した。他方,1950年代後半から各省庁,公企体に全労会議(のちの同盟)系の諸組合が結成され,59年9月,全日本官公職労働組合協議会(全官公)を結成した。

 地方公務員のなかでは,1946年6月,全国公共団体職員組合連合会(全公連),同11月,日本都市労働組合同盟(都市同盟)が結成され,47年11月に合同して日本自治体労働組合総連合(自治労連)を結成した。49年11月には,行政整理をめぐる左右対立から民同派は全日本自治団体労働組合協議会(自治労協)を結成した。その後,共産党の戦術転換から自治労連も総評に加盟して54年1月両組織は再統一され,全日本自治団体労働組合(自治労)となった。自治労は日本最大の単産である。

 地方公務員のうち教員は,1946年12月,全日本教員組合協議会(全教協)を結成して全官公庁共闘委員会(全官公庁労協)に加わった。47年6月,他の教員組合と合同して日本教職員組合(日教組)となる。57~59年の勤評反対闘争など文教政策をめぐって文部省との対立を繰り返し,このため脱退者が発生し,反対派は66年日本教職員連合(日教連)を結成した。

 50年代から70年代にかけて公労協,官公労の諸組合は,ILO87号条約批准問題やスト権奪還闘争で政府との対立を深め,75年11月~12月にはスト権ストを実施した。しかし行政改革のなかでしだいに世論の支持を失い,85年4月には電電・専売の両公社が民営化され,87年4月には国鉄も分割民営化されて,官公労働者の闘争力は著しく減殺された。郵政など四現業の公務員は国営企業労働関係法の適用下にある。80年代には民間部門で労働戦線の統一が進み,これを受けて89年11月には総評系官公労と友愛会議系全官公も連合に加盟し,官民統一が実現された。しかし全労連や全労協(全国労働組合連絡協議会)はこれに参加しなかったため,自治労などは再び思想対立によって分裂することになった。全労連には国公労連や教員の全教,全労協には国労や都労連が属している。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「公務員」の意味・わかりやすい解説

公務員
こうむいん

広義においては、国または地方公共団体等の公務に従事することを職務とする者を総称していう。任命、嘱託、選挙その他いずれの方法で選任されたかを問わず、また立法、司法、行政のどの部門に属するかを問わない。この意味では、国家公務員法および地方公務員法にいう一般職および特別職の国家公務員および地方公務員はもちろん、国会議員や地方議会議員も含み、さらに公共企業体その他の公法人の役職員なども、公務に従事する限り公務員である。日本国憲法第15条にいう公務員はこの意味に解されている。

 しかし、一般に公務員という場合には、国会議員や地方議会議員を除き、それ以外の国または地方公共団体の公務を担当する者(国家公務員および地方公務員)をさし、また狭義においては、行政に従事する職員だけをさしていう場合もある。なお、従来は、広く官吏および吏員という語が用いられ、日本国憲法においても官吏・吏員の語を用いているところがある(憲法73条4号・93条2項)が、官吏・吏員という場合には、普通、公法上の身分的隷属関係にたち、国または地方公共団体の公務に従事することを本務とする者のみをさすのに対して、公務員という場合には、それよりも広く、たとえば、臨時的労務の提供をなすにとどまる者や、ほかに職業をもつことを許される顧問、参与、委員なども含まれる。

 ところで、旧憲法のもとでは、その公務員制度は、天皇に身分的に隷属した官僚的な官吏制度であった。すなわち、官吏は、すべて天皇の任官大権に基づいて任命される天皇の官吏であって(大日本帝国憲法10条)、「凡(およ)ソ官吏ハ天皇陛下及天皇陛下ノ政府ニ対シ忠順勤勉ヲ主トシ」(官吏服務規律1条)、天皇の名において人民を支配する特権階級であった。これに対して、国民主権主義を根本のたてまえとする現行憲法のもとにおいては、公務員は当然に国民の公務員であり、国民全体に奉仕すべき国民のための公務員でなければならない。憲法第15条に、「公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である」(1項)とし、また「すべて公務員は、全体の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない」(2項)と規定しているのは、このことを示したものである。国家公務員法および地方公務員法を中心とする現行公務員法のねらいとするところも、このような憲法の精神にのっとった民主的な公務員制度を確立し、また同時に、現代の高度に技術化された複雑な行政をできるだけ能率的に遂行しうるような科学的な制度とすることにあるといえよう。

[真柄久雄]

国家公務員

国の選任により、主として国の公務を担当する国の職員をいう。ただし、地方公共団体に勤務する職員であっても、健康保険法、職業安定法、道路運送法などの施行に関する事務に従事する都道府県の職員は、当分の間、なお官吏とされ(地方自治法附則8条)、また都道府県警察の職員のうち警視正以上の階級にある警察官は、一般職の国家公務員とされている(警察法56条1項)。

[真柄久雄]

一般職と特別職

国家公務員法は、国家公務員の職を一般職と特別職に分け、特別職については同法の規定を適用せず、一般職についてだけ適用することとしている。現在、特別職には、大臣、副大臣、大使、公使、裁判官、国会職員、自衛官、失業対策事業労務者などの職が指定されており、これらの特別職以外のいっさいの職が一般職である(国家公務員法2条)。

[真柄久雄]

職階制

一般職に属するすべての職(官職)を、その職務の種類および複雑さと責任の度に応じて分類整理する制度である。これを基礎として、職員の任用、給与、研修などの人事行政の運営を科学的、合理的なものにしようというのがねらいである。すなわち、まず、職務の種類の類似性を基準として、一般行政職、一般事務職、警察職、大学教育職、守衛、電話交換手などの職種に分類し、さらにその職務の複雑さと責任の度によって1級、2級などの職級に分類する。そして、そのように分類整理された同種同級の官職については、同一の資格要件を必要とするものとして同一の試験を行い、また同一の俸給表を適用するようにしようというのである(国家公務員法29条)。しかし、この職階制そのものは、現在、種々の事情から、まだ完全には実施されていない。

[真柄久雄]

任用

職員の任用は、通常の場合は、採用、昇任、転任、配置換および降任のいずれか一つの方法で行われ、例外的に臨時的任用または併任の方法で行われる(国家公務員法35条・60条、人事院規則8-12)。いずれの方法による場合でも、情実を排して、能力本位の原則により、受験成績、勤務成績、その他の能力の実証に基づいて行われる(国家公務員法33条)。とくに採用は、競争試験を原則とし、人事院規則の定める受験資格を有するすべての国民に対して平等の条件で公開される(国家公務員法46条)。

[真柄久雄]

権利・義務

国家公務員の分限上の権利としては、まず、法律または人事院規則に定める事由による場合でなければ、その意に反して、降任、休職、免職されることはない権利を有する(国家公務員法75条)。そして、その意に反して降給、降任、休職、免職その他不利益な処分を受けた場合には、人事院に不服申立てをすることができる。また、財産上の権利として、給与、退職年金、退職手当、公務傷病に対する補償、旅費の支給などの実費弁償、官舎や官服などの実物の給貸与などを受ける権利を有する。

 国家公務員の義務については、服務の根本基準として、「すべて職員は、国民全体の奉仕者として、公共の利益のために勤務し、且つ、職務の遂行に当つては、全力を挙げてこれに専念しなければならない」(国家公務員法96条)とされているほか、具体的には、国家公務員法に、職務に専念する義務(101条)、法令および上司の命令に従う義務(98条1項)、秘密を守る義務(100条)、信用失墜行為の禁止(99条)などが規定されている。また、労働基本権の全部または一部が制限され(108条の2~108条の7、98条2項・3項)、所定の政治的行為が禁止され(102条)、さらに営利企業等との関係について制限を受けている(103条・104条)。義務の違反は、任命権者による懲戒処分の対象となる(82条以下)ほか、それらの義務違反の多くの場合について刑罰を科すべきものとしている(109条~111条参照)。

[真柄久雄]

地方公務員

地方公共団体の選任により、主として地方公共団体の公務を担当する地方公共団体の職員をいう。ただし、地方公共団体に勤務する職員であっても、国家公務員としての身分を有する者のあることは、前に述べたとおりである。地方公務員の職は一般職と特別職に分けられ、知事、市町村長、教育委員会や選挙管理委員会などの委員などの職が特別職とされている。地方公務員法の規定は、特別職に属する職については適用されず、一般職に属する職についてだけ適用される。国家公務員の場合の人事院に相当する特別の人事機関として、人事委員会または公平委員会が設けられている(地方公務員法7条)ほか、職階制の採用(23条)、能力本位による任用制度(15条以下)、公務員としての権利義務などの点については、国家公務員の場合のそれと基本的にはほぼ同様の規定が置かれている。

[真柄久雄]

準公務員

国または地方公共団体の公務員のほかに、公共企業体その他の公法人の役職員について、多かれ少なかれ公務員に準ずる法的取扱いがなされている場合がある。一般に、「法令により公務に従事する職員とみなす」とされる場合で、この場合に、とくに国家公務員法に準ずる規定を設けて、実質上は公務員に準ずる取扱いをすることもあるが、国家公務員法そのものの適用は受けないのが通例である(日本国有鉄道法、地方公営企業法など)。

[真柄久雄]

諸外国の公務員

主要諸国の公務員制は、次のようになっている。

[真柄久雄]

イギリス

この国において(国家)公務員civil serviceとは、その給与が議会の議決した予算から直接支払われる国王の奉仕者で、政治的または司法的機関に勤務する者を除き、かつ文官である者をいう。したがって、軍人、裁判官、政治的官職にある者、および公社の職員などは含まれない。(国家)公務員は、非現業公務員と現業公務員に分けられ、また、恒久公務員と非恒久公務員に区分されるほか、非現業の公務員については階級制がとられている。たとえば、行政クラス、執行クラス、書記クラス、補助書記クラスなど数十のクラスに分類し、さらに各クラスはそれぞれ数個の等級に分けられる。同一クラスに属する公務員は、任用、給与などに関して統一的に取り扱われる。人事行政機関としては、国王任命の6名の委員から構成される人事委員会が、任用試験および資格証明に関する事務を担当するほか、大蔵省人事管理局が公務員に関するその他の人事行政事務を統轄している。労働関係は、直接団体交渉により、またホイットレー委員会(政府側および組合側の同数で構成される)における協定および公務員仲裁裁判所による裁定によって処理される。なお、非現業の公務員とくに行政クラスや執行クラスの者については、政治活動が厳しく制限されているが、現業職員は、立候補を含めていっさいの政治活動が自由である。

[真柄久雄]

アメリカ

連邦の文官公務員civil serviceは、軍人、裁判官および一定の政治的官職にある者を除いて、連邦政府の公務に従事するすべての者をいう。このうち行政府の文官公務員は、任用方式の別により、競争的任用職と除外的任用職とに大別されるが、前者については職階法により、きわめて精緻(せいち)な職階制が設けられている。中央人事行政機関としては、所属政党を異にする3名の委員からなる連邦人事委員会があり、任用、給与、能率、服務などに関して広範な権限を有している。労働基本権については、団結権、団体交渉権はいちおう認められているが、争議権は認められていない。また、政治的活動は、公務員法およびハッチ法によって、競争的任用職だけでなく、非競争的任用職をも含めて厳しく禁止されているが、最近、これを一部違憲とする裁判例が出ている。

[真柄久雄]

ドイツ

連邦に勤務する職員には、官吏Beamte、雇員Angestellte、労務者Arbeiterの3種があり、このうち雇員および労務者は、連邦と私法上の契約関係にたつ職員である点において官吏と区別される。連邦官吏は、連邦もしくは連邦直轄の社団、営造物、財団に対して公法上の勤務関係および忠誠関係にたつ者で、裁判官および軍人を除いた者をいう。任用は、原則として試験採用制であり、条件付き官吏および見習官吏の期間を経て終身官吏となるが、終身官吏となれば身分保障がある。中央人事行政機関としては、連邦人事委員会が試験や研修などのほか訴願の決定を行うが、その他の人事行政事務はすべて連邦内務省が権限をもつ。官吏の労働基本権については、団結権は制度的に確立されているが、労働協約締結権や争議権は否定されている。雇員および労務者については、一般の労働者の場合とほとんど同様の権利が保障されている。また、連邦官吏の政治的活動は一定の制約を受けているが、官吏身分を保持したまま邦・市町村議会に立候補できるなど、比較的に緩やかな制約にとどまっている。

[真柄久雄]

フランス

国の公務員agents publicsは、国が直接管理する公務に従事し、国または公施設によって雇用され、公法の条項が適用される者をいい、官吏titulairesと非官吏(契約職員contractuels)に大別される。官吏はさらに、1959年の官吏法の適用を受ける官吏と、同法の適用を受けない官吏とに区別される。裁判官、軍人および商工業的性格を有する中央官庁または公施設に勤務する職員などが非適用官吏であり、それ以外の官吏がすべて官吏法適用官吏である。適用官吏の職は、A(管理職、研究職)、B(一般事務職)、C(技能職)、D(労務職)の四つの職種に区分され、さらに、いくつかの職群に分類される。そして採用、昇進などはこの職群ごとに統一的に取り扱われる。人事行政機関としては、中央に官吏制度局(内閣官房)と官吏制度最高評議会があり、また、各省庁の内部機関として人事管理委員会および行政委員会(組合との協議機関)が置かれている。労働基本権については、団結権および労働協約締結権は認められているが、争議権については警察を除いて別段の規定はない。また、公務員の政治活動はかなり自由であり、若干の例外を除いて、公職選挙への立候補も認められている。

[真柄久雄]

『鵜飼信成著『公務員法』新版(1980・有斐閣)』『浅井清著『国家公務員法精義』新版(1970・学陽書房)』『佐藤功・鶴海良一郎著『公務員法』(1954・日本評論社)』『鹿児島重治著『逐条地方公務員法』(1980・学陽書房)』『鵜飼信成・辻清明・長浜政寿編『公務員制度』(1956・勁草書房)』

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百科事典マイペディア 「公務員」の意味・わかりやすい解説

公務員【こうむいん】

広義には国または地方公共団体の公務に従事するすべての者。狭義には国会議員地方議会議員などは除かれる。国家公務員地方公務員の2種がある。日本国憲法は,国民主権主義を採用し,国民による公務員の選定罷免(ひめん)権を認めるとともに公務員を全体の奉仕者(国民の公僕(こうぼく))と定め,大日本帝国憲法下の〈天皇の官吏〉を否定した。職務の性質上,一般人と比し自由や権利の面で制約をうける。
→関連項目戒告教育公務員行政書士公務員試験職権濫用罪選挙メリット・システム

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「公務員」の意味・わかりやすい解説

公務員
こうむいん

(1) 明治憲法下の官公吏とほぼ同義であるが,第2次世界大戦後特にこの言葉が用いられるようになった。その理由は,明治憲法 10条や官吏服務規律においては,天皇の官吏であることが強調されていたため,国民主権の日本国憲法のもとでは,国民の公僕という意味を明確にする必要が痛感されたためである。公務員は国家公務員と地方公務員に区別され,狭義では国家公務員法と地方公務員法の規制を受ける一般職をさすが,広義ではこの法律が適用されない特別職も含まれる。 (2) 公務担当者の総称。法令上大別して,憲法上の公務員 (15条等) ,刑法上の公務員 (7条) ,公務員法上の公務員の3つの用法がある。公務員法上の公務員は,国家公務員と地方公務員,一般職公務員と特別職公務員,現業公務員と非現業公務員とに分類される。また,特例公務員とでも称すべき公務員がある (国家公務員法附則 13,地方公務員法 57) 。憲法 15条では,公務員が明治憲法下におけるがごとく「天皇の官吏」ではなく「全体の奉仕者」であり,公務員の選任権は「国民固有の権利」であるとしている。公務員は基本的人権の享有を妨げられないが,労働基本権を制限されることがある。

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世界大百科事典(旧版)内の公務員の言及

【政治家】より

…革命やクーデタによって政権についた人々は,いわば自選と互選の政治家である。日本やイギリスのような議院内閣制の国では,政治の表舞台は内閣と議会に限られており,高級公務員は政治過程において重要な役割を果たしていても政治家とは呼ばれないが,高級公務員が大統領の政治的任命によって選任されるアメリカ,公務員がその地位を保持しながら政策決定に公然と参加するフランス,ドイツ(旧,西ドイツ)については,一部の公務員は政治家とみなされている。みずから公然と政治権力の行使に参加する意思はないが,集票のマシーンを握ったりロビイングを通じて暗躍し,マス・メディアを通じてジャーナリスト,評論家,解説者として政治的影響力を行使する〈黒幕〉政治家も,政治を主たる生計の資としているかぎり政治家とみなせる。…

【争議権】より

…この禁止規定に違反する争議行為は,一律に民・刑事免責を失うものでなく,各規定の趣旨に照らして免責の有無が判断される。 公務員,国営企業等および地方公営企業の職員の争議行為は全面的に禁止される(国家公務員法98条,地方公務員法37条,国営企業労働関係法17条および地方公営企業労働関係法11条)。そして違反に対しては刑事罰・免職を含む重い制裁を科している。…

※「公務員」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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