改訂新版 世界大百科事典 「中性水素領域」の意味・わかりやすい解説
中性水素領域 (ちゅうせいすいそりょういき)
neutral hydrogen region
HI領域ともいう。電波観測によって,観測された中性水素の存在する領域をいう。中性水素は,ほとんどまんべんなくわれわれの銀河系を埋めつくしている。銀河の中心部は比較的少なく,渦状腕に沿って外縁部のほうにやや多く存在する。われわれの銀河の外の多くの銀河でも中性水素領域がほぼ同様に存在する。この意味で,中性水素領域は天文学上もっとも基本的な星間ガスの領域であるといえる。中性水素は電波(21cm放射)によってのみとらえることができる。1950年ころから中性水素領域は星間ガスの元祖として,星間を電波,赤外線などの光以外の電磁波で調べる研究の幕あけ的役割を果たしてきたが,近年は,赤外,ミリ波などによる星間ダストや,星間分子に関する新しい知見が加えられつつある。星間ガスを大きく分けると中性水素,電離水素,星間分子,ダストとなるが,その中で中性水素領域は,いわば宇宙の,どちらかといえば一様な,背景的存在である。もちろん濃淡はあり,局所的な集中も存在はするが,その度合は,ダストや星間分子に比べると強くない。しかしそれだけに基本的存在である。
中性水素領域の中に高温に輝く星があると,その光によって中性水素は電離して,星の付近に電離領域を形成する。電離領域からは,電波や光が発せられ,雲のように輝いたいわゆる散光星雲が認められるようになる。
執筆者:赤羽 賢司
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報