星間分子(読み)セイカンブンシ

デジタル大辞泉 「星間分子」の意味・読み・例文・類語

せいかん‐ぶんし【星間分子】

星間空間に存在する、低温・高密度の分子雲を構成する分子の総称

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「星間分子」の意味・わかりやすい解説

星間分子
せいかんぶんし

星間空間に存在する分子をいう。星間空間は密度が非常に低い(1立方センチメートル当り水素原子約1個程度)が、分子は、そのなかで分子雲とよばれるとくに密度の高い領域(1立方センチメートル当り水素分子約1000個以上)で形成されやすいので、ほとんどの星間分子は、分子雲中に存在すると考えてよい。

 2014年6月時点で確認されている星間分子は173種類あり、それらのほとんどは電波天文観測を通して発見されている。分子が放射する電波は、分子が回転するときに出されるもので、分子によってその波長が決まっている。波長は約20センチメートルから約1ミリメートルという範囲に集中している。星間分子の構成原子の種類はたいへん少なく、水素、炭素、窒素、酸素、ケイ素、硫黄(いおう)、ナトリウム、リンなどであり、とくに前四者だけからできているものが多く、宇宙における各原子の量を反映しているといえる。

 電波による星間分子の発見は1963年のヒドロキシ基(OH)に始まり、水、アンモニアと続き、1970年代には次々と分子が発見される時期を迎えた。1980年代に完成した国立天文台の45メートル電波望遠鏡の活躍により日本でも17個の新分子が発見されるなど、世界の大型電波望遠鏡等を用いた高感度観測により第二の発見ラッシュが起きた。現在でも毎年発見が続いている。また1990年代の後半からは赤外線衛星の観測により、電波を放出しない分子が多く発見された。

 星間分子の特色としては、地上の実験室では短寿命なラジカル(例、C2H、エチニルラジカル)や、分子イオン(例、HCO+、ホルミルイオン)が長時間存在することがあげられる。1980年代以降の研究により、これらの「短寿命分子」は、イオン分子反応を中心とする星間分子の形成反応のなかで重要な役割を果たしていることがわかってきた。地球上で短寿命であるのにもかかわらず宇宙では存在できるのは、先に述べたように星間分子雲がきわめて希薄な環境であることが理由である。一方、これらの星間分子の発見を通じて分子化学の分野においても短寿命分子の重要性が認識され、その研究が大きく促された。

 前述したように、星間分子が存在するのは星間空間のなかでもとくに密度の高い分子雲の中である。分子雲はまた星の誕生の場でもあるので、星間分子の研究は、星や惑星の生成の謎(なぞ)、また太陽系誕生の研究に結び付く。とくに彗星(すいせい)は太陽系が誕生した当時の分子組成をそのまま維持していると考えられており、1987年のハリー彗星ハレー彗星)の接近以降その研究が活発に行われている。宇宙における生命発生の謎を探る手掛りとして、宇宙のアミノ酸の探査も行われているが、もっとも簡単なアミノ酸であるグリシン(NH2CH2COOH)でさえも、いまだに発見されていない。

 星間分子の研究は、日本、アメリカ、ヨーロッパが共同で南アメリカ、チリ北部のアタカマ砂漠に建設し、2013年に本格運用が開始された干渉計方式の電波望遠鏡「アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計」Atacama Large Millimeter/submillimeter Array(ALMA(アルマ))により、ますます進歩するものと期待される。

[大石雅寿]

『出口修至著『星間分子物語』(1985・地人書館)』『赤羽賢司・海部宣男・田原博人著『宇宙電波天文学』(1988・共立出版)』『桜井邦朋著『現代天文学が明かす宇宙の姿』(1989・共立出版)』『井口洋夫編『分子科学とは――そのあらまし』(1990・日本学術振興会)』『広田栄治・遠藤泰樹著『分子――その形とふるまい』(1990・大日本図書)』『広田襄・梶本興亜編『現代化学への招待』(2001・朝倉書店)』『日本化学会編『先端化学シリーズ4 理論・計算化学 クラスター スペースケミストリー』(2003・丸善)』

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化学辞典 第2版 「星間分子」の解説

星間分子
セイカンブンシ
interstellar molecules

星間空間(interstellar space)に存在する物質全体を星間物質とよび,そのなかで分子状のものをいう.星間物質は,大部分が水素,ついでヘリウムからなる星間ガスと微量のケイ酸塩やグラファイトの星間塵(じん)である.星間分子の存在する宇宙空間は,恒星の進化と密接に関連しており,恒星晩年の赤色巨星周辺,まき散らされたガスが収縮してできた暗黒星雲,さらに濃度が増加した恒星形成の前駆状態である分子雲などである.分子の回転に起因する赤外領域からミリ波,ラジオ波領域の発光スペクトルと背景の恒星を光源とする吸収スペクトルを,人工衛星,ハッブル宇宙望遠鏡搭載の赤外~紫外分光器や地上の電波望遠鏡(野辺山国立天文台の45 m 電波望遠鏡,アリゾナKitt Peak天文台の12 m 電波望遠鏡が有名)によって観測して同定する.H2,HCN,エタノールから13原子で構成されるシアノ化合物に至る約150種の分子が観測されている.なかでも糖類C2H4O2グリコアルデヒド,PN,CPなどは生命体構成物質として注目されている.これらの分子が宇宙空間の10 K 程度の極低温と極端な低密度状態でどのようにして合成されるのか,十分わかっていないが,活性化エネルギーを必要としないイオン分子反応,イオンと電子の荷電中和反応,ラジカル反応などが宇宙塵表面で起こることが考えられている.

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改訂新版 世界大百科事典 「星間分子」の意味・わかりやすい解説

星間分子 (せいかんぶんし)
interstellar molecular

きわめて希薄で低温の宇宙空間では,地上における平衡反応とはまったく異なるラジカル反応によって,さまざまな分子が形成されている。これを星間分子と呼ぶ。分子はその回転状態の変化に伴って短波長の電波を放出・吸収する。波長1mm~1cmのミリ波帯に集中するこれら星間分子の電波スペクトル線を電波望遠鏡で観測することにより,1970年以降宇宙空間物質の研究が著しく進んだ。それによれば,星間分子は微細な固体微粒子と共存してごく低温の分子雲と呼ばれる巨大なガス雲を形成しており,これが銀河系内において星を次々と生み出す母体となっている。星間分子は現在五十数種類が知られているが,その中にはアンモニア,ホルムアルデヒド,メチルアミンなど生命と関係の深い分子も多く,星間分子雲からの惑星系形成とともに,星間分子と生命の関係にも興味がもたれる。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「星間分子」の意味・わかりやすい解説

星間分子
せいかんぶんし
interstellar molecule

星間空間に存在する分子。1963年に水酸基 OHが発見されてから今日までに,多数の星間分子種がおもに電波観測によって見つかっている。一酸化炭素,一酸化ケイ素,メチル基,シアン基,エチルアルコールなどが分子線と呼ばれるミリ波の電波輝線を放出し,それらのスペクトル観測によって存在が明らかになった星雲を特に分子雲という。星間雲や暗黒星雲の状態,星の形成過程,銀河の構造,宇宙での化学反応や生命の誕生(生命のもとともなる有機分子が含まれているため)などの解明に大きな役割を果たす。

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百科事典マイペディア 「星間分子」の意味・わかりやすい解説

星間分子【せいかんぶんし】

宇宙空間において,地上における平衡反応とはまったく異なるラジカル反応によって形成される分子。電波望遠鏡による星間分子の電波スペクトル線の観測から,星間分子が微細な固体微粒子と共存してごく低温の巨大なガス雲(分子雲)を形成しており,これを母体として銀河系内の星が生み出されていることが明らかになった。どのような分子が存在するかは,分子雲の発する光のスペクトルや分子が放射する電滋波からつきとめることができる。現在五十数種類が知られていて,アンモニア,ホルムアルデヒド,メチルアミンなど生命と関係の深い分子も見つかっている。

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