改訂新版 世界大百科事典 「丹波猿楽」の意味・わかりやすい解説
丹波猿楽 (たんばさるがく)
中世,丹波に本拠を置いた猿楽。現在の京都府亀岡市に本拠地のあった矢田猿楽,綾部市大島の梅若猿楽,それに本拠地不明の日吉(ひえ)猿楽などが丹波猿楽の有力な座であった。矢田猿楽は鎌倉時代から本座と呼ばれていた古い座で,京都法勝寺の修正会や賀茂社の御土代祭(みとしろまつり),住吉社の御田植神事などに摂津の榎並(えなみ)座(新座)や法成寺座とともに参勤しており,伏見の御香宮でもかなり早い時代から1437年(永享9)まで楽頭職を保持して春秋の神事に猿楽を奉仕していた。梅若や日吉も応永(1394-1428)ころには仙洞での演能が頻繁で,丹波猿楽は大和猿楽進出以前の京都では中心的な存在であったが,室町末期から江戸時代の初めにかけて大和猿楽にツレや地謡方(じうたいかた)として吸収され,座としては消滅する。なお,矢田座,榎並座,法成寺座を〈丹波猿楽三座〉などと呼ぶことが多いが,榎並と法成寺は摂津に本拠を構えた座であり,この呼称はあまり適当ではない。
執筆者:天野 文雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報