改訂新版 世界大百科事典 「乳漏症」の意味・わかりやすい解説
乳漏症 (にゅうろうしょう)
galactorrhea
生理的な乳汁分泌は産褥(さんじよく)期の授乳中にのみみられるが,これ以外のときに非生理的乳汁分泌が起こる状態をいう。多くの場合に血中プロラクチン値の上昇が認められる。原因となる疾患には,間脳-脳下垂体系の障害,脳下垂体腫瘍,異所性プロラクチン産生腫瘍,原発性甲状腺機能低下症,薬剤,外傷その他胸部疾患などがあるが,とくに原因が明らかでないものもあり,これを特発性乳漏症という。乳汁分泌を促すホルモンであるプロラクチン(PRL)は,脳下垂体前葉から分泌されるが,産褥期以外は間脳(視床下部)から分泌され,脳下垂体門脈を経て脳下垂体前葉に運ばれて作用するプロラクチン分泌抑制因子によって抑制されている。ところが,下記のような原因によってプロラクチンが異常に分泌されると,産褥期以外でも乳汁が分泌されることになる。間脳-脳下垂体系障害では,この部分における腫瘍,炎症,血管障害などの器質性疾患により,抑制因子の産生低下や脳下垂体への作用の障害により,脳下垂体前葉でのプロラクチン分泌抑制がなくなる。間脳の機能異常でも同様のことが起こる。一方,プロラクチン産生腫瘍,末端肥大症などの脳下垂体腫瘍や異所性プロラクチン産生腫瘍では,腫瘍からプロラクチンが過剰に分泌される。薬剤が原因となる場合は,経口避妊薬などエストロゲン製剤,クロルプロマジン,ハロペリドール,スルピリドなどのドーパミン拮抗剤,セロトニン前駆体などの使用により,プロラクチン分泌が促進される。胸部疾患による胸部局所刺激もプロラクチン分泌刺激となることがある。このような高プロラクチン血症による乳漏症では無月経を伴うことが多い。治療としては,手術可能な場合には腫瘍の外科的摘出,甲状腺機能低下症があれば甲状腺ホルモン投与など原因疾患の治療が原則である。原因療法で血中プロラクチン値が十分低下しない場合には,ドーパミン作動薬であるブロモクリプチンを投与する。血中プロラクチン濃度が正常の乳漏症もまれにみられるが,その原因は明らかではない。
→乳汁分泌不全症
執筆者:村上 徹
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報