改訂新版 世界大百科事典 「五十日祝」の意味・わかりやすい解説
五十日祝 (いかのいわい)
平安朝の貴族社会で行われた通過儀礼の一つ。松の餅(もちい)とも呼ぶ。生誕50日目に当たる夜,餅を磨粉木(すりこぎ)でつぶし,重湯,煎汁(いろり)(だし汁)などをまぜ,木の箸と匕(かい)で新生児に含ませる儀。この役には父または外祖父が当たり,式は戌(いぬ)の刻(午後8時ごろ)の例が多い。この儀には市(いち)の餅(月の前半は東市,後半は西市)を調進するしきたりで,もと民間習俗だったものが形式化されたものとみられる。儀式の調度はすべて小ぶりに作られ,餅をはじめ籠物(こもの),折櫃(おりうず)などは50に数を合わせる。当夜は小児の前途を祝って賀宴が催され,祝いの歌が詠まれた。貴族社会では主要行事として重視され,当時の文学にもしばしば見られる。なお100日目にも〈百日祝(ももかのいわい)〉といって同じく祝いの餅が供されたが,これもすべて50日目に準ずる。それまで乳汁ばかりだったのをやめてゆく離乳の儀式化されたもので,後世では箸立て(箸初め・食初め)に受けつがれる。
執筆者:中村 義雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報