日本大百科全書(ニッポニカ) 「いろり」の意味・わかりやすい解説
いろり
いろり / 囲炉裏
屋内の土間や床の一部を切って設けた炉。火を焚(た)き、食物の煮炊きや暖房などに用いる。大きさは普通、炉口1メートル前後の正方形か長方形である。古くは土間の地面につくられた地炉であったが、やがて土間と板の間の境につくられるようになり、さらに板の間や座敷の床面に設けられるようになった。いろりは、文献には比多岐(ひたき)、地火炉(じかろ)、囲炉裏などと書かれているが、地方によっても、その呼び名は、ユルリ、ユルギ、イジロ、エンナカ、ヒドコ、ヒビト、ヒタキジロなど種々あるが、いずれも人のいる場所、火を焚く場所を意味し、いろりが家の真ん中に設けられ、家庭生活の重要な中心であったことを示している。そのことは、家長をはじめ家族や客人のいろりの座席が厳格に定められていたことからもうかがわれる。土間からみて、いろりの奥正面は家の主人の座である「よこざ」「だんないど」、この「よこざ」の隣の入口に近い客人の座を「きゃくざ」「よりつき」「まりとざ」といい、ここは、普段は隠居した年寄や長男の座となる。この「きゃくざ」に向かい合った「よこざ」の隣の座は「かかざ」「なべざ」「たなもと」「こしもと」などとよばれ、食物の煮炊きと配分をする主婦の座であり、「よこざ」の向かい側の土間寄りの座は「きじり」「ほたじり」「しもざ」といって、下男、作男など雇人の座る場所とされている。
なお、いろりに鍋(なべ)、釜(かま)をかけるための鉤(かぎ)は、固定したものから自在鉤(じざいかぎ)となり、さらに鉄輪(かなわ)、五徳(ごとく)などが使われるようになった。また、いろりの真上には火棚をつって食物の乾燥などに用いるのが普通であった。煙出しは屋根に設けることが多い。
いろりの火は、年越しの日に新たな火種に切り替えることはあったが、一年中絶やさぬように管理するのが、一家の主婦の重い責任でもあった。また、いろりおよびその周辺は、火の神の祭壇として、火の清浄を保つため、種々の禁忌、作法が守られていた。
[宮本瑞夫]
『宮本馨太郎著『燈火 その種類と変遷』(1964・六人社)』