日本大百科全書(ニッポニカ) 「伊勢神宮錦」の意味・わかりやすい解説
伊勢神宮錦
いせじんぐうにしき
伊勢神宮で20年ごとに行われる式年遷宮に際し、朝廷から奉献される御神宝(ごしんぽう)、すなわち調度品や装束類に使用された神宮所蔵の錦類。御神宝裂(ぎれ)ともよぶ。
御神宝類が神宮に調進されたのは奈良時代に始まるが、御神宝類は遷宮のつど用済みのものは焼却、あるいは土中に埋めることを慣例としたため、裂類もそれほど古いものは残っていない。現在、国の重要文化財に指定されている神宮所蔵の「御装束神宝御料布帛(ふはく)本様」3帖(じょう)は、1669年(寛文9)から1869年(明治2)にかけてのもので、これらは古来の仕様を示す見本としてとくに残されてきたものである。
錦類は主として被(かつぎ)、衣(きぬ)、裳(も)、沓(くつ)、襪(しとうず)、枕(まくら)などに供されたが、それらの裂の特色は文様、織ともに伝統にのっとってつくられたものが多い。とくに「屋形」「車形」「五窠(ごか)」などの文様はいずれもその名称が、『延喜式(えんぎしき)』伊勢大神宮の条に、「屋形錦被一条」「刺車錦被二条」「五窠錦被一条」と記されており、また鶺鴒(せきれい)文は御衣の表地として知られている。織物組織も大和(やまと)錦と称されるような中世の錦織の伝統を踏襲し、地も文様も緯(よこ)の六枚綾(あや)で織り出した柔らかな風合いのものが多い。
[小笠原小枝]