屋形(読み)ヤカタ

デジタル大辞泉 「屋形」の意味・読み・例文・類語

や‐かた【屋形/館】

地位・身分ある人の住む屋敷。また、その主人。おやかた。
仮ずまいのための形ばかりの小屋。かりや。寓居ぐうきょ
「水茎の岡の―に妹と我と寝ての朝けの霜の降りはも」〈古今・大歌所御歌〉
牛車ぎっしゃなどの上につくった家の形をした覆い。
「月の明きに、―なき車のあひたる」〈・四五〉
船の上にしつらえた屋根のある部屋。船屋形
「みさごは魚をつかみながら大友が舟の―の上へぞ落ちたりける」〈太平記・一六〉
貴人を敬っていう語。また、特に中世屋形号を許された大名の称。
「―の御意得奉りて」〈甲陽軍鑑・四〇〉
屋形船」の略。
「つながせし―に皆々乗り出す」〈浄・二枚絵草紙〉
[類語](1豪邸邸宅屋敷

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精選版 日本国語大辞典 「屋形」の意味・読み・例文・類語

や‐かた【屋形・館】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 舟の上に設けた屋根のある家の形をしたもの。ふなやかた。
    1. [初出の実例]「奥つ国領(うしは)く君が柒屋形(ぬりやかた)黄柒(にぬり)の屋形神が門渡る」(出典:万葉集(8C後)一六・三八八八)
  3. 牛車や輿車(こしぐるま)などの上につくった家の形の覆い。
    1. [初出の実例]「腰車一具。屋形。〈長六尺。広五尺〉〈略〉牛車一具。屋形。〈長八尺。高三尺四寸。広三尺二寸〉」(出典:延喜式(927)一七)
    2. 「月のあかきに、屋かたなき車のあひたる」(出典:枕草子(10C終)四五)
  4. かりそめに構えた家。また、かりの宿所。かりや。寓居
    1. [初出の実例]「水ぐきの岡のやかたにいもとあれどねてのあさけの霜の降りはも〈よみ人しらず〉」(出典:古今和歌集(905‐914)大歌所御歌・一〇七二)
  5. 貴人や大名・豪族、有力武士などの邸宅。また、宿所。たち。との。
    1. [初出の実例]「弘経屋形(ヤカタ)に帰って云ひけるは」(出典:源平盛衰記(14C前)二二)
  6. 貴人を敬っていう語。また特に、中世、屋形号を許された大名の称。
    1. [初出の実例]「来十四日永興忌、同誉康公状至云、屋形要予之赴忌斎拈香、以予之拒辞停止」(出典:蔗軒日録‐文明一八年(1486)一一月一〇日)
    2. 「某おん館(ヤカタ) 義政公をさしていふ の御気色を損じ」(出典:読本・昔話稲妻表紙(1806)五)
  7. やかたぶね(屋形船)」の略。
    1. [初出の実例]「袖口くけぬ袷かたびら〈横几〉 小船にて楼船(ヤカタ)尋る花の暮〈桃隣〉」(出典:俳諧・伊達衣(1699)上)
  8. 芸娼妓の住んでいる家または置屋。〔洒落本・当世嘘之川(1804)〕
  9. 家の形状を図案として表わした紋所または模様。屋形紋。
    1. [初出の実例]「伊勢内宮の紋は屋形なり」(出典:随筆・遠碧軒記(1675)上)
  10. やかたちりめん(屋形縮緬)」の略。〔万金産業袋(1732)〕

や‐ぎょう‥ギャウ【屋形】

  1. 〘 名詞 〙 九州地方で、墓の上を覆う屋形(やかた)のことをいう。

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改訂新版 世界大百科事典 「屋形」の意味・わかりやすい解説

屋形 (やかた)

古代・中世における貴人の居所または尊称。《播磨国風土記》《常陸国風土記》には貴人の仮の一時的な邸宅の意に用いられているが,《和名類聚抄》の解釈では牛車の屋根を指し,《枕草子》では屋形船の意に用いられている。したがって平安期では屋根のある船舶または車の義でもあった。鎌倉期に入ると幕府要人の邸宅や家臣の居所など,身分ある者の邸宅との意が生じた。とくに東国を中心に,地方居住の在地領主(武士)の居館を屋形と表現した記録が多い。南北朝時代に入ると,《太平記》などの軍記文学によって将軍執事,探題など,武士階層中のとくに有力支配者の邸宅のみを〈屋形〉と記す表現法が初めて生じ,他方,武士一般の居宅は屋形の称を使わなくなった。

 ところで,鎌倉期には武士の邸宅に〈館〉の字をあて,タチと読ませているが((たち)),これが家臣から主人への尊称に用いられる例が生まれた。平安期には官舎,国郡庁を館で表記し,鎌倉期に至って在地領主邸宅を館とするようになったが,この居所としてのタチがヤカタと読まれるようになり,そのために尊称としてのヤカタの用例も生まれた。南北朝期は,天皇が地方豪族に発給する綸旨のあて名に〈結城上野入道館〉などの称を用い,地方上級武士の尊称に〈館〉字が用いられる例を開いた。15世紀に入ると守護大名を指して屋形と称し《大乗院寺社雑事記》など公家側の記録によっても,〈屋形〉はまったく守護と同義語に用いられており,建造物を指す用語ではなくなっている。これに対し将軍は〈公方〉または〈御所〉と称し,屋形の字をあてることはなくなった。近世に入ると,室町期に守護級だった家柄の藩主が屋形の称を許されている。民間でいう〈親方〉の語源も,〈御屋形〉の遺称という説がある。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の屋形の言及

【置屋】より

…明治以後は,女郎屋に貸座敷という公用語が適用されたので,もっぱら芸妓に用いて芸妓置屋といい全国に通用することになったが,その組合などは芸妓屋組合と称する例が多い。なお,関西では芸妓の住居を屋形と俗称し,自前屋形と店屋形とにわかれた。また,第2次大戦後に,一部の地方で芸妓置屋を芸妓下宿業と称した。…

【館】より

…城塞または土塁の意であって,古代朝鮮語のサシ(城)との関連が考えられるが,〈館〉との関係は未詳とされている。鎌倉期以降は〈やかた〉と読むようになり,屋形の字をあて,守護大名等の尊称となった。館(たて)【今谷 明】。…

※「屋形」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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