伝奇新譜(読み)でんきしんぷ

改訂新版 世界大百科事典 「伝奇新譜」の意味・わかりやすい解説

伝奇新譜 (でんきしんぷ)

中国語で書かれたベトナムの小説集。全1巻。《伝聞新録》とともに《伝奇漫録》の続撰書で,《続伝奇》ともいい,6編の伝奇小説を集めている。長編詩《征婦吟曲》の作者として著名なレ(黎)朝末の閨秀詩人ドアン・ティ・ディエムDoan Thi Diem(段氏点。1705-48)がホン・ハー(紅霞)の号で書いたとされているが不明の点が多く,6編の小説のうち〈碧溝奇遇〉〈横山僊局〉〈義丈屈描〉の3編のほかはディエムの作ではないともいう。1811年刊の楽善堂版によって伝わるが,この板本にディエムの実際の兄の名と異なる不明の人物ダム・ニュー・フー(淡如甫)が兄として批評を付していることも,ディエムとこの小説集の関係に疑いをもたせている。6編の小説はいずれもベトナムを舞台にした不思議なできごとを伝える話で,なかでも河内(ハノイ)の碧溝に住む詩人チャン・トゥ・ウエン(陳秀淵)が玉壼寺で仙女ザン・キエウ(絳嬌)とめぐりあって心を奪われ,のち路傍で買い求めた絵から抜け出したザン・キエウと結ばれたあと夫婦仙界に飛び去る怪異譚は,648行より成る伝統詩の六八体演歌に韻文化されて最もよく知られ,古典劇演目にもなっている。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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