征婦吟曲(読み)せいふぎんきょく

改訂新版 世界大百科事典 「征婦吟曲」の意味・わかりやすい解説

征婦吟曲 (せいふぎんきょく)

ベトナムのレ(黎)朝末期に書かれた漢詩と,これを民族語に訳した長編詩。漢詩は永佑(1735-40)・景興(1740-86)年間にハドン河東)のタインオアイ(清威)県の知県であったダン・チャン・コンDang Tran Con(鄧陳琨)の作で,唐代に行われた楽府の長短句形式にならった476句から成る,抑揚と変化に富む長詩。夫を戦場に送った少婦の独白で,別離を悲しみ孤独を訴え,夫の帰還を待ちわびる痛切な心情を歌っている。ベトナムが南北に分裂して抗争し,内乱が頻発した時代を生きた作者が,身辺見聞に発して女性の立場から征戦の非情を描写したもので,一種の反戦詩となっているが,事件と背景を中国漢代以降の異民族征討にかかわる故事に借りている。ダン・チャン・コンの詩はゴ・トイ・シ(呉時仕)など当時の著名な文人の評価を受けた後,都御史グエン・キエウ(阮翹)の側室で閨秀詩人として知られたドアン・ティ・ディエムDoan Thi Diem(段氏点。1705-48)やその他の詩人によってチュノムを用いた民族語詩に翻訳された。412句の詩行から成るドアン・ティ・ディエムの双七六八体詩が最も広く行われ,後世国民文学として親しまれたため,一般に《征婦吟曲》といえばドアン・ティ・ディエムの長編詩を指すことが多い。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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