低換気症候群

内科学 第10版 「低換気症候群」の解説

低換気症候群(呼吸調節の異常)

病態生理
 低換気症候群とは,慢性肺胞低換気の結果,日中に高二酸化炭素血症(PaCO2≧45 mmHg)が認められる病態である.呼吸の調節は上記のように,呼吸中枢により自動的に行われ一定のPaO2,PaCO2,pHに保たれているが,呼吸中枢に障害があり,特に,低酸素と高炭酸ガスに対して換気の反応が低下しているときには,慢性の肺胞低換気(低酸素血症,高二酸化炭素血症)が出現する.日中覚醒時には,上位中枢による行動性の呼吸調節が働くため,あまり目立たないが,睡眠時には行動調節が失われるため,低換気はより増悪することが多い.
 睡眠時に肺胞低換気のため呼吸が小さくなり,日中覚醒時にも明らかな肺胞低換気状態を呈するものが原発性肺胞低換気症候群(primary alveolar hypoventilation syndrome:PAHS)とよばれる.最近の厚生労働省の班研究(厚生科学研究費補助金特定疾患対策研究事業,2002)において,疾患の診断基準が発表され,全国調査が行われたが,その頻度はきわめて低いことが報告されている.
 Pickwick症候群(Bickelmannら,1956)は,肥満,日中傾眠,痙攣チアノーゼ,周期性呼吸,多血症,右室肥大を認める特異な病態であるが,日中覚醒時に慢性の肺胞低換気を認めるのが大きな特徴である.本症候群は,後述する閉塞型睡眠時無呼吸症候群(obstructive sleep apnea syndrome:OSAS)の最重症例と考えられており,現在では,肥満低換気症候群(obesity-hypoventilation syndrome:OHS)とよぶのが一般的である.
診断・鑑別診断
 厚生省研究班が作成した,原発性肺胞低換気症候群と肥満低換気症候群の診断基準を表7-11-1,7-11-2に示す.いずれも日中覚醒時に高二酸化炭素血症を認め,睡眠中の異常呼吸が認められることが重要である.したがって,確定診断には,夜間の睡眠ポリグラフィ検査(polysomnography:PSG)が必須である.鑑別すべきは日中に高二酸化炭素血症(Ⅱ型呼吸不全)を呈する種々の呼吸器疾患であるが,特に,神経・筋疾患との鑑別が必要である.
治療
 PAHSは,呼吸中枢の異常により呼吸筋の働きが障害され吸気が十分できない状態であるため,基本的には人工呼吸が必要である.日中覚醒時には行動性呼吸調節により換気は比較的保たれるため,夜間の睡眠時にのみ人工換気を行えばよい.近年,開発された鼻マスクを用いた非侵襲的陽圧換気(non-invasive positive pressure ventilation:NPPV)は,きわめて有用な方法である.横隔膜をペーシングして吸気を補助する方法も試みられているが,その有効性についてはいまだ定まっていない.
 肥満低換気症候群は,重症の閉塞型無呼吸症候群であるため,その治療は後述する閉塞型無呼吸症候群の治療に準ずる.[赤柴恒人]
■文献
Bickelmann AG, et al: Extreme obesity associated with alveolar hypoventilation−a Pickwick syndrome. Am J Med, 21: 811-818, 1956.
Guilleminault C, Tilkian A, et al: The sleep apnea syndromes. Ann Rev Med, 27: 465-484, 1976.
厚生科学研究費補助金特定疾患対策研究事業.呼吸不全に関する調査研究(主任研究者栗山喬之).平成13年度総括研究総括書,pp146-147,2002.
睡眠呼吸障害研究会編:成人の睡眠時無呼吸症候群,診断と治療のためのガイドライン,メディカルレビュー社,東京,2005.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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