日本大百科全書(ニッポニカ) 「催奇形物質」の意味・わかりやすい解説
催奇形物質
さいきけいぶっしつ
生体に摂取または投与されることにより、胎児に形態異常を生ぜしめる物質。妊娠の初期に睡眠薬のサリドマイドを服用した結果、あざらし肢症の子供が多数出生し、医薬品の投与による先天性形態異常の発生が世界的に問題となった。形態異常を生ぜしめる物質としてはおもに放射線と医薬品がある。医薬品では、サリドマイドのほか、抗甲状腺(こうじょうせん)剤、ヨード化合物、男性ホルモン作用を有するホルモン(ゲスタゲン、エチニルテストステロン、ジメチルエチステロン、ノルエチンドロン、ノルエチノドレル、メドロキシプロゲステロンなど)、合成エストロゲン(ジエチルスチルベストロール、ヘキセストロールなど)、抗悪性腫瘍(しゅよう)剤(制癌(がん)剤)、キニーネ、フェニトイン(抗てんかん薬)などがあげられる。催奇形性の疑いのある薬物には、アスピリンのほか、クロルプロマジンなどのフェノチアジン系向精神薬、イミプラミンをはじめとする三環系抗うつ剤、炭酸リチウム、副腎(ふくじん)皮質ホルモン、経口糖尿病薬、ストレプトマイシン、痘瘡(とうそう)ワクチンなどがあり、動物実験で胎児毒性、催奇形性が報告されているものも少なくない。そのほか、ビタミンAの過剰または不足、風疹(ふうしん)ウイルスなども、催奇形性のあることが知られている。
[幸保文治]