改訂新版 世界大百科事典 「先入先出法後入先出法」の意味・わかりやすい解説
先入先出法・後入先出法 (さきいれさきだしほうあといれさきだしほう)
商品や材料などの棚卸資産の原価を期中の売上(払出)分と期末残存分(期末棚卸高)に配分する二つの方法。〈先入先出法first-in first-out method(fifo)〉とは,最初に受け入れたもの(前期繰越分も含む)から順次売り上げられるという仮定のもとで売上原価(払出原価)と期末棚卸高を決定する方法である。これに対して〈後入先出法last-in first-out method(lifo)〉とは,先入先出法とは逆に,最も新しく受け入れたものから順次売り上げられるという仮定のもとに売上原価と期末棚卸高を決定する方法である。いずれも代替性をもつ棚卸資産に関して,価値の流れを実際の物の流れと切り離して,〈受入順に〉または〈受入順とは逆に〉売り上げられるという仮定に基づく計算方法である。おのおのの性質から,先入先出法は買入順法,後入先出法は買入逆法ともいわれる。棚卸資産の価格が一定の場合は,いずれの方法でも売上原価と期末棚卸高とはともに同じ額になるが,価格が変動する場合に違いがでる。価格上昇期には,先入先出法によると,売上原価が時価から離れて価格上昇による架空利益が多く計上されるとともに,期末棚卸高は時価に近いものになるが,後入先出法によると,売上原価が時価に接近し,架空利益をほとんど計上しなくて済むが,期末棚卸高が時価を反映しない過去の原価による名目額によることになる。価格下落期には,まったく逆の関係になる。先入先出法は,現実の物の流れに沿うため,古くから認められていたが,価格上昇期には架空利益を計上し,資本の維持を不可能にするおそれがある。逆に後入先出法は,現実の物の流れを無視するものの,価格上昇期には架空利益の計上を排除し,資本の維持を可能にする面をもつ。そこで,第2次大戦中の著しいインフレを背景に,先入先出法が批判され,後入先出法の合理性が強く主張され,各国の税法もこの方法を容認するに至った。日本では,1950年の改正法人税法において,この方法が初めて容認された。
執筆者:前田 貞芳
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報