一般的には道理にかなっていることを意味し,日常的には科学的であること,科学的に証明できること,ないし理想とされる価値にかなっていること等の意味で使われている語。この言葉はラテン語のratioに由来するrationality,およびそれに類するヨーロッパ語からの翻訳語である。大きく分ければ,形式的な意味で使われる場合と実質的に使われる場合の二つに分けることができる。形式的な使用法によれば,合理性とはある認識において,要素間の関係が一定の論理的規則,たとえば矛盾律,因果律等にかなった形で整序され,首尾一貫して結びつけられていること,またその認識がそういう論理的規則に照らして吟味され批判されうることを意味する。端的にいって,非整合的ではないという論理性格が,形式的意味での合理性の指標となる。それに対して実質的な意味で使われる場合には,合理性とは価値を担い理想にかなっていることをさす。しかし現今では形式的用法のほうが優勢であって,それを推し進めていけば,あらゆる価値はむしろ主観的な信念にかかわるものであり,客観的には優劣を決めることのできない非合理的なものだという考え方もでてくる。
合理性が社会的行為のレベルで問題にされる場合には,合理性は目的と手段というカテゴリーに結びつけられる。たとえばM.ウェーバーは,〈目的合理的行為〉と〈価値合理的行為〉を区別する。目的合理的行為とは,一般に任意の目的が与えられた場合に,行為がその目的を達成するのにもっとも効率的に組織されていることをさし,価値合理的行為とは,特定の目的そのものの価値が肯定的に前提され,その目的の実現にふさわしいように行為が組織されていることをいう。したがってやや誤解されやすいが,目的合理的行為は手段にかかわり,価値合理的行為はむしろ目的にかかわるといえるであろう。具体的な例をあげれば,プロテスタントにとっては〈救済〉という理想が価値目的とされ,〈禁欲〉という手段がその目的のためには合理的とされるが,快楽を価値とする快楽主義者にとっては〈禁欲〉という手段は非合理的なものでしかない。それに対して,近代の資本主義における経済活動や官僚制機構における業務においては,目的内容の価値自体は問題にされず,もっぱら手段の効率性が一般に合理性の基準となっている。
歴史的に見れば,知識としての理論的合理性の萌芽は古代の各文明圏に見られたし,ギリシアにおいてすでに開花していたといえる。しかしそれを実践に応用し,技術を通じて自然を支配しようとする実践的合理性は,近代の西欧に固有のものであって,この意味での合理性は〈進歩〉の観念と結びついて〈近代化〉の指標となる。合理的科学と合理的社会こそが近代を近代たらしめるものであり,〈合理主義〉こそが近代の世界観なのである。〈感情的行為〉や〈伝統的行為〉は近代においても存在するとはいえ,近代的行為の典型ではありえない。理論的合理性(科学)と実践的合理性(技術)によって自然を支配し,人間が主人の座につくところに近代の頂点が認められる。しかし近代の展開とともに,合理性は機能転化を起こし,E.カッシーラーやK.マンハイムがいうように,〈実体的合理性〉は〈機能的合理性〉へと変質する。合理性の価値性格は見失われ,形式的合理性の優位が確立される。現代では,形式合理性と実質合理性は分離するだけでなく,矛盾するようになり,極端な場合には二律背反的関係におちいる。こうして進歩と結びついた合理主義に対して,逆に復古的な方向にさまざまの非合理主義が生まれてくるようになる。
こういう歴史的状況に面して,〈近代的合理性〉に対し,いろいろな角度から反省が加えられるようになる。たとえば社会人類学の発展によって未開社会の思考や態度が明らかになるにつれ,それを文明社会の合理性よりも低い段階のものと考えていいのかどうか,異質的な文化にはそれぞれ異なった合理性の基準があり,これまで考えられていた合理性基準はむしろ西欧中心主義にすぎなかったのではないか,かりにそうだとすれば,合理性の基準はどうしたら相対主義を脱することができるのか,そういう反省と論議が起こってくる。またJ.ハーバーマスはフランクフルト学派の近代的合理性批判を継承しつつ,これまでの目的合理的行為に代わって,相互了解に定位する〈コミュニケーション的合理性〉を,新しい合理性として提起し,その体系化を図ろうとしている。科学,技術,社会の危機に面して,その原理としての近代合理性をどう批判し継承するかが現代の大きな課題なのである。合理性の形式化が実質的内容をもった歴史の趨勢の中で進められ,自立的制度として逆に人間を支配している現代においては,合理性を人間の解放へと転化することが求められている。
執筆者:徳永 恂
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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