先染織物(読み)さきぞめおりもの

日本大百科全書(ニッポニカ) 「先染織物」の意味・わかりやすい解説

先染織物
さきぞめおりもの

染織した繊維紡績したのち使うか、あるいは糸にしたものを染色してから織り成し、織物に仕上げたものをいう。後染(あとぞめ)織物に対する語。先染めは織物になる前の段階で染色されるが、外観上無地染めにみえるものでも、練絹朱子(ねりぎぬしゅす)のように一色に染めた色糸で織ったものや、解(ほぐし)織のように後染めの捺染(なっせん)をしてあると思われるものでも、整経した経糸(たていと)に捺染してから織ったものもある。またその反対に、縞(しま)織物でも織物に縞を捺染したものもある。

 先染めは糸染めのものが多いが、繊維の種類により適切な段階で染色されている。

(1)原液染め 化学繊維の紡糸原液に、染料または顔料溶解または分散して含有着色させるもの。

(2)原料染め 紡績しない前の短繊維のままで染色するもの。

(3)トップ染め 梳毛(そもう)紡績の中間製品であるトップの状態で染色する方法。

(4)糸染め ほとんどの繊維に適用されるもの。

 先染めの起源は、後染めとほぼ同時に発生したとみられ、繊維自体の異なる自然色を組み合わせることにより、模様を生んでいったものとみられる。日本の先染織物は、『魏書(ぎしょ)』東夷伝(とういでん)のうちの伝人の条に倭錦(わきん)、異文雑錦(いもんざっきん)がみえ、2世紀なかばには生産されていたことがわかる。やがて5世紀なかばには中国から新しく錦綾(きんりょう)技法が導入されるに及び、生産の飛躍的発展がみられ、奈良時代には錦(にしき)、綴(つづれ)錦、風通(ふうつう)などが盛行した。この時期には後染めとの並行的発展がみられる。しかし古代末期には律令(りつりょう)制の衰退とともに、織物生産も減少するが、やがて各地において特産品が生まれ、また中国からは唐錦(からにしき)の技法が取り入れられた。

 近世初頭には南方から縞織物が多量に移入され、日本の織物に大きな影響を与えた。そして明治以後における西欧技術の導入により、ジャカード機で巧妙な織物を生み出し、各地の木綿織物は、縞や絣(かすり)などに最高の技術を発揮した。現代の先染織物には、経緯(たてよこ)に異なった色糸を使って霜降り効果を表すものなど、多くの変化に富んだ織物が考案されている。

[角山幸洋]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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