多くの矛の神の意で,大国主神の異名のうちの一つ。武神としての名とみられる。この名は《古事記》にみえ,4首からなる物語的問答歌(〈神語(かむがたり)〉という)の主人公として登場する。武人的英雄神ヤチホコノカミは高志(こし)(越)国の沼河比売(ぬなかわひめ)に求婚する。第1首は女の家にやって来た男の求愛の歌で,戸外に立たされたまま夜が明けてしまう。第2首では女が,男の要求を拒みつつも男をなだめ,明晩を約束する。後段の男女合歓の直截的な描写は結婚賛歌である。第3首では嫡妻須勢理毘売(すせりびめ)命の激しい嫉妬に,ヤチホコノカミは出雲から大和へ行ってしまおうとして離別の歌を歌う。第4首は,スセリビメが女としての魅力と酒でカミを自分のもとにとどまらせようとする歌である。いずれも演劇的身体表現をともない,宮廷の宴席で演ぜられたものとみられる。
→大国主神
執筆者:西宮 一民
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
…名義は大いなる国主の意で,天津神(あまつかみ)(高天原の神々)の主神たる天照大神(あまてらすおおかみ)に対して国津神(くにつかみ)(土着の神々)の頭領たる位置をあらわす。大国主にはなお大己貴命(おおなむちのみこと),葦原醜男(あしはらのしこお),八千矛神(やちほこのかみ),顕国玉神(うつしくにたまのかみ)などの別名がある。これはこの神が多くの神格の集成・統合として成った事情にもとづいており,そこからオオクニヌシ神話はかなり多様な要素を含むものとなっている。…
…オオクニヌシが根の国に赴いたさいスセリビメと結ばれるが,以後,彼女は妻としてスサノオの課したさまざまな難題の解決に夫を助ける。また八千矛(やちほこ)神(=大国主神)が高志(こし)の沼河比売(ぬなかわひめ)に求婚する歌物語では,激しい嫉妬を示している。その名のスセリはススム(進む)と関連する語で,みずから進んでオオクニヌシと結婚し,父神に背いて夫に協力する等の性情とつつみあうものであろう。…
※「八千矛神」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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