化学辞典 第2版 「六配位錯体」の解説
六配位錯体
ロクハイイサクタイ
complex with coordination number six
配位数が6の金属錯体で,金属錯体の大部分を占める.構造はx,y,z軸上に配位原子をもつ正八面体型と三角柱型が知られているが,ほとんどが正八面体型である.正八面体からのずれがみられるものがあり,それらは次の三つに大別される.
(1)一つの軸の金属-配位原子間距離がほかの二つの軸に比べて短いか長い正方(tetragonal)ひずみ,
(2)三つの軸の長さがすべて異なる斜方(rhombic)ひずみ,
(3)配位原子がつくる相対する正三角形間の距離が正八面体に比べて短いか長い三方(trigonal)ひずみ,
がある.[ML4L′2]錯体にはシス,トランス形の異性体があり,[ML3L′3]錯体には,三つの配位原子Lの配置が八面体の三角形をなすfacial(fac-)と,子午線をなすmeridional(mer-)異性体がある.これとは別に,二座配位子が二つ以上配位したキレート錯体には対掌体が存在し,Δ,Λ型の光学異性体がある.正八面体錯体中において,d軌道はエネルギーの低い三重に縮重した t2g 軌道(dπ:dxy,dyz,dzx)とエネルギーの高い二重に縮重した eg 軌道(dσ:dx2-y2,dz2)に分裂する.t2g 軌道は配位原子の間に広がり,一方,eg 軌道は配位原子に向いている.d軌道の分裂により,d4~d7 電子系では,電子間反発のエネルギーと配位子場エネルギーの大きさにより,高スピン状態または低スピン状態をとる.三角柱型の構造をとるものは,ほとんどがイオン半径の大きい金属原子に二座配位子が三つ配位したものである.これは八面体錯体をつくるには,配位子の大きさとイオン半径の大きさが合わないためである.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報