改訂新版 世界大百科事典 「円偏光二色性」の意味・わかりやすい解説
円偏光二色性 (えんへんこうにしょくせい)
circular dichroism
円二色性ともいう。光学活性の一種。光学活性な物質に右回りおよび左回りの円偏光を通すとき,吸収の程度が異なり,観測される色が異なる現象をいう。この現象はダブH.W.Doveによって紫水晶で発見され,1896年にはコットンA.Cottonによって着色した旋光性溶液にも現れることが発見された。円偏光二色性(CD)の測定は,左および右回りの円偏光を光学活性物質の入った試料に通して行い,それぞれの吸光係数εL,εRを求め,その差⊿εをもってCDとする。CDは旋光性と同様に,光の波長によって大きく変わる。これらの量が最大となる波長λ0やその絶対値は,光学活性物質の種類,濃度によっても大きく変わるが,濃度や温度などの条件を決めてやれば光学活性物質固有の値をもつ。純粋な直線偏光を光学活性物質に通した場合には,左右両円偏光の吸光係数に差があるので,厳密には楕円偏光が得られる。物質によっては極大波長λ0をいくつも有するものもあり,⊿εの波長依存スペクトルは,アルカロイド,糖類,タンパク質などの天然有機化合物や金属錯体などの光学異性体を区別し,その構造を論ずるための重要な量となっている。
執筆者:正畠 宏祐
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報