利益説(読み)りえきせつ(その他表記)benefit principle

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「利益説」の意味・わかりやすい解説

利益説
りえきせつ
benefit principle

租税負担は納税者が国,地方公共団体から享受している公共サービスに対する利益の対価であるとする租税原則に関する理論で,能力説(応能説)に対するもの。応益説ともいう。17~18世紀の政治理論家のうち,フーゴ・グロチウス,トマス・ホッブズ,ジョン・ロック,デービッド・ヒューム,ジャン=ジャック・ルソーらによって,租税は国家の保護に対して支払われるべき価格,あるいは有機的な社会という集団における会費とみなされた。19世紀に入るとジョン・ラムゼー・マッカロックやアドルフ・ティエールらによって租税を保険料として狭く解釈する傾向が現れたが,19世紀の末葉にイタリアのマフェオ・パンタレオーニ,マツオラ,A.デ・ビティ・デ・マルコオーストリアの E.ザックス,スウェーデンのクヌート・ウィクセルらによって新しい理論が展開された。その特徴は古典派経済学者が公正の基準として利益説を論じたのに対して,納税者が公共サービスから受ける便益の価格として租税負担額を決定することが効率的資源配分の条件であるという角度から取り上げたことである。20世紀に入ってエリック・R.リンダールはウィクセルの理論を発展させ定式化した。

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世界大百科事典(旧版)内の利益説の言及

【外形標準課税】より

…しかし,国や地方公共団体の提供する財やサービスが企業の生産活動に不可欠であるとすれば,それに対応する租税負担もまた黒字企業によってのみならず,赤字企業によっても負担さるべきであろう。外形標準課税は支払能力を間接的に推定させるという点では能力説によって根拠づけることができるが,赤字企業といえども公共サービスの便益を受けているのだからその負担もすべきであるという点では,利益説によっても正当化できる。【林 正寿】。…

【租税】より

…しかし1978年秋の石油危機以降では,租税原則としてどの学者も無視できない原則は,〈公平〉と〈効率〉という二つの原則である。
【租税の哲学―利益説と能力説】
 租税は人類の歴史のなかでつねに政治的紛争の中心となっている。イギリスの名誉革命やフランスの大革命では,課税についての人民の同意原則,つまり租税承諾権が成立し,アメリカ革命でも不当な税に対する紛争が大きな役割を演じた。…

【租税理論】より

…この能力説は,等しい能力をもつ人々は等しく支払うべきであるという〈水平的公平〉と,大きい能力をもつ人々が多く支払うべきであるという〈垂直的公平〉の達成を要求している。効率的な資源配分との関係における最適課税の問題はE.バローネ,J.G.K.ウィクセル,リンダールErik Robert Lindahl(1891‐1960)らの〈利益説〉の論者によって取り上げられた。この利益説は,政府支出の費用を調達する場合,政府支出から受ける人々の利益に応じて個別的に課税すべきであると主張している。…

※「利益説」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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