日本大百科全書(ニッポニカ) 「動的安全・静的安全」の意味・わかりやすい解説
動的安全・静的安全
どうてきあんぜんせいてきあんぜん
すでに獲得した権利や利益が、他人によってみだりに奪われることのないように、法律上保護されることを静的安全という。一方、取引行為によって新たに権利や利益を取得しようとするときに、その取得行為が法律上保護されることを、動的安全(または取引の安全)という。たとえば、甲の所有物を保管している乙が、その物を自分の物だといって、丙に売却したような場合に、この売買契約を有効と解して丙が保護されることを動的安全といい、この売買契約を無効と解して甲が保護されることを静的安全という。この二つの要請は互いに矛盾しており、これをどのように調整するかは、立法および解釈上の重要な問題である。この調整をどのようにするかは、時代によっても、取引の種類によっても異なることとなるであろう。元来は、静的安全に重点が置かれていたが、資本主義の発達に伴って、財産法における動的安全が、しだいに重視されるようになってきた。たとえば、表見代理(民法109条・110条・112条)、動産の即時取得(同法192条)などが、その適切な現れといえよう。
[竹内俊雄]