不動産に対立する概念。民法上の定義では,土地およびその定著物(不動産)以外の有体物をすべて動産という(86条2項)。したがって,その種類,範囲は無限にちかい。物の生産に使用される各種の機械・器具から,日常の衣食住(消費生活)に供される食料品,医薬品,衣料品,各種電気製品,家具,自動車,書物,はては,船舶・航空機等々,すべて動産である。
(1)通常の動産 動産と不動産との区別は古くからなされ,それは主として,その自然的性質およびその財産的価値の相違を根拠とするものであった。以上のことから動産に対する法の取扱いが不動産と異なる点が少なくない。(a)まず,不動産は動かないものであり,個性価値も高いことから,その物理的現況および権利関係を個々的に公示しうる登記制度を設け,その取引の便宜を図っている。しかし,通常の動産においては,そのような取扱いは技術的に非常に困難であるゆえに,それの占有をもって権利の公示方法とし,動産物権変動についてはその引渡しをもって対抗要件としたのである(178条,ただし質権設定では引渡しが成立要件(344条))。(b)不動産登記に公信力(〈公信の原則〉の項参照)はないが,動産取引では善意取得制度が認められている。すなわち,無権利者から動産の権利を取得した者が,前主の動産占有からこの者を権利者と信じた場合は,原則としてその権利取得を有効とするのである(192条。ただし193~194条は例外)。(c)用益物権は不動産にのみ関係がある。成立しうる担保物権についても動産,不動産で相違がある。(d)強制執行の手続が不動産と異なる(民事執行法)。
(2)船舶,航空機,自動車等の特例 以上は通常の動産に関する議論であるが,動産であってもその経済的価値等において不動産と比肩されるほどの重要性をもつ船舶,航空機,自動車等は,法律上も不動産と類似した取扱いを受ける。すなわち,登記ないし登録により公示がなされ,それが所有権の移転についての対抗要件とされ(船舶につき商法686条,687条,航空機につき航空法3条,3条の3,自動車につき道路運送車両法4条,5条),また登記,登録を対抗要件とする抵当権の設定が可能である(船舶につき商法848条,自動車につき自動車抵当法3条,5条,建設機械抵当法3条,5条,7条,農業動産使用法12条,13条)などである。
(3)無記名債権 無記名債権は動産とみなされている(民法86条3項)。無記名債権とは,商品券,乗車券,劇場入場券などのように,券面上特定の債権者名が表示されておらず,その証券の正当な所持人をもって権利者とする債権をいう。債権の法的運命が紙片(動産)たる証券に従うから動産とみなしたのである。これにより無記名債権については,一応,動産に関する諸規定の適用をみることとなる。
(4)貨幣 貨幣も一応動産ということができるが,特殊なものである。金銭の所有権はその占有に従うのであり,したがって,その善意取得を問題とする余地はないと考えられる。
執筆者:安永 正昭
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土地およびその定着物を不動産といい(民法86条1項)、それ以外の物をすべて民法上動産という(同条2項)。したがって、土地に付着する物であっても、定着物でない物(仮植中の樹木や庭石など)は動産である。建物の造作も建物の構成部分とされないもの(障子、ふすまなど)は動産である。また、民法は、無記名債権(たとえば、無記名公債・商品券・乗車切符などのように、証券に債権者名を表示せず、債権の成立・存続・行使などに証券の存在を要件とする債権)を動産とみなした(86条3項)。
動産と不動産とは法律上の取扱いを異にする。たとえば、権利の得喪・変更の対抗要件は、不動産では登記である(177条)が、動産の場合には引渡しである(178条)。また、日本の民法上、登記には公信力がなく、したがって、不動産の場合には、他人の物を善意・無過失で取得しても即時取得(善意取得)されない(したがって、所有権を取得しない)が、動産の場合には、一定要件のもとに即時取得が認められる(192条)。なお、船舶、自動車、農業用動産(農業用機械、牛馬、漁船など)などは動産であるが、特別法によって不動産に準じた取扱いがなされている。
[淡路剛久]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
…債権が,特定人が他の特定人に対し一定の行為を請求する権利であるのに対し,物権に属する所有権は特定の物を排他的・全面的に支配する権利である。物とは有体物,たとえば動産・不動産をいう(民法85条)。この点で,所有権は無体物の支配権である無体財産権(特許権,意匠権,実用新案権,商標権,著作権など)と異なる。…
…法律上,動産に対立する概念である。不動産を定義して,民法は,土地およびその定著物という(86条1項)。…
…70年翻訳御用掛に制度取調兼勤となり,以後その後半生をフランス民法典をはじめ西洋法律書の翻訳に従い,ボアソナードらとともに旧民法その他の起草に参画するなど,明治政府の法典編纂事業を根底から支えつづけた。民権・動産・不動産・未必条件・治罪法・憲法などの訳語を考案し,フランス法理論の基礎をなす自由・人権思想を理解し,〈国政転変ノ論〉の訳稿で人民の抵抗権・革命権を認めるなど,法学官僚としても異色の存在であった。この間,明六社に参加して啓蒙活動を行い,東京学士会院会員,元老院議官,司法次官,貴族院議員などを歴任した。…
… 次に,物は各種の観点から分類しうる。(1)不動産と動産 まず不動産と動産とは,その自然的性質,経済的な価値,そのうえに成立しうる権利(とりわけ担保権)などの相違からして,分類の意義がある。不動産は,その重要性にかんがみ,登記簿という国家の管理する帳簿上にその物理的現況,権利関係が公示されうるしくみとなっている。…
※「動産」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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