日本大百科全書(ニッポニカ) 「化学の学校」の意味・わかりやすい解説
化学の学校
かがくのがっこう
Die Schule der Chemie
ドイツの化学者オストワルトの著した化学入門書。全2巻。1903~1904年に刊行。本書が書かれたのは、彼が少年時代に愛読したシュテックハルトJulius Adolf Stöckhardt(1809―1886)の同名の著書(1846年刊)の出版社から、新たな著作を依頼されたのがきっかけであった。彼は、初心者に理解しやすく、経験ある科学者にも快い驚きが味わえるように、先生と生徒の対話形式を採用し、豊富に提示される適切な実験から、徹底して帰納的に論述を展開したのである。また、物理化学を化学教育の基礎に適用すべく、平衡や反応速度など、入門書としては斬新(ざんしん)な考え方を盛り込んだ。仮説を排除する極端な経験主義の立場から、原子概念を使わずに論述が展開されている。これは今日からみれば弱点ともみえるが、にもかかわらず、自然科学の精神をあらゆる読者に伝える古典として現在も変わらぬ価値をもっている。
[内田正夫]
『都築洋次郎訳『化学の学校』上中下(岩波文庫)』