改訂新版 世界大百科事典 「原子蛍光法」の意味・わかりやすい解説
原子蛍光法 (げんしけいこうほう)
原子に固有の吸収線波長の光を照射したときに,吸収された光は再び蛍光として放射される現象を利用して元素の定量を行う分析法。すなわち,原子蛍光法では,原子吸光と原子発光という2段階の電子遷移による光過程によって起こる現象を観測する。このとき観測される蛍光強度は照射する入射光強度に比例し,また高温媒体中の原子蒸気層の原子数に比例する。実験的には,化学炎(空気-アセチレン炎,酸化二窒素-アセチレン炎など),電気加熱高温炭素炉,アルゴンプラズマなどの中に溶液試料を導入して原子を生成し,光源(無電極放電管,中空陰極ランプ,キセノンランプ,レーザーなど)の光を検出方向と直角方向から照射し,蛍光強度を測定する。この場合,溶液試料中の元素濃度と高温媒体中に生成する原子数は比例関係にあるので,蛍光強度の測定から試料中の元素濃度の定量ができる。原子蛍光法は1964年に創始された分析法であるが,原子吸光法と同様に多数の元素について微量分析が可能であることから注目されている。とくに,レーザー励起原子蛍光法は超高感度,高選択性の特徴をもち,かつ微小空間中の原子や温度分布の直接測定ができる。ただし,光源光の強度と安定性,装置設計などの問題もあって,現在アルゴンプラズマを原子化部とするプラズマ原子蛍光装置,水銀微量分析計のほかは市販装置はない。
執筆者:原口 紘炁
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報