微量分析は通常二つの意味に用いられる。一つは取り扱う試料の量が微量の場合であり,他は取り扱う試料の量によらず微量の成分を分析する場合である。とくに後者を区別する場合には痕跡分析trace analysisという用語を用いる。化学分析では取り扱う試料の量により,常量分析macro analysis(~0.1g以上),半微量分析semimicro analysis(10~20mg),微量分析micro analysis(~1mg),超微量分析ultra micro analysis(~1μg)などと便宜上の分類がある。
微量分析法は1926年ころオーストリアの化学者エーミヒFriedrich Peter Emich(1860-1940)により系統化されたが,F.プレーグルによる有機微量分析法の開発や,ファイグルFritz Feigl(1892-1971)による点滴分析法spot test(斑点分析)の開発などが大きな貢献をしている。有機微量分析では3~5mgの試料を用いて元素分析ができ,点滴分析では1滴の試料(0.05ml)で目的化学種を分析することができる。微量分析は,化学種の検出,定量方法の感度向上と装置の進歩にともなって発展してきた。微量てんびんは1/1000mgの質量の測定を可能にし,小型の各種装置は微量の物質の取扱いを容易にした。有機元素分析にはミクロデュマ法,ミクロケルダール法が登場したが,現在ではC.H.N.コーダーにより1mg以下の試料を用いて元素分析をすることができるようになり,リン,硫黄,ハロゲンも同様に分析できるようになった。1mg以下の試料の取扱いには,小型の蒸留器や沈殿生成用の装置が用いられ,沈殿は遠心分離法を用い,固体結晶の検定には顕微鏡を用いる鏡検分析が利用された。また微量物質の分離にはペーパークロマトグラフィーが利用され,高感度の検出には紫外線照射による蛍光が利用された。
一方,いわゆる痕跡分析では微量成分の分析が発展し,従来,微量成分としては0.1%以下の成分が対象とされていたものが超微量の成分の分析へと発展した。それは,高純度の物質が必要になったためであり,微量の不純物がIC,トランジスターなどの性質を大きく左右するからである。また環境試料のようにきわめて低濃度の化学種を定量する必要が生じたためである。これらの分析のためには,高感度の分析方法の開発とともに,前処理,濃縮の方法が重要になった。大量の試料から目的化学種を分離濃縮する方法として,イオン交換法,液体クロマトグラフ法,溶媒抽出法などが用いられるが,これらの操作に用いる水,試薬類の精製が必要になった。微量成分もppm(part per million,10⁻6),ppb(part per billion,10⁻9),ppt(part per trillion,10⁻12)となると操作途中に入るコンタミネーション(接触汚染)が問題になる。この場合には酸,塩基,溶媒などをサブボイリングで精製する。ppm~ppbの分析では分離濃縮後,吸光光度法,原子吸光法,ガスクロマトグラフ法で分析が行われるが,それ以下の場合は質量分析法,中性子放射化分析法,ガスマス法などが用いられる。
→元素分析 →窒素定量法
執筆者:綿抜 邦彦
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きわめて微量の試料を扱って分析を行うことをいう場合と、きわめて含有量の少ない成分を分析することをいう場合とがある。前者では含有成分が微量であると常量であるとを問わないが、扱う試料としてはおおよそ1~10ミリグラム程度をさすことが多く、厳密な区別はない。半微量分析と超微量分析との中間に位置し、化学操作には特殊な小形の器具を使用し、秤量(ひょうりょう)は微量分析用に設計された微量天秤(てんびん)を用いて行う。一方、後者の場合は分析法の鋭敏度(感度)が問題となり、化学的手段だけで分析することが困難な場合が多く、最近では種々の機器を利用した高感度分析法を利用することが多い。
[高田健夫]
微量な試料で目的成分の分析が遂行できるようにした分析法の総称.普通,試料の量は1~10 mg 程度のものを取り扱ったので,ミリグラム分析ともよばれたが,この量には厳密な意味はなく,1 mg 以下の量でも使用される.採取試料や分析段階の質量測定には微量てんびんが用いられ,実験器具類もすべて小型につくられている.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
…元素分析法は発見から現在まで,過去1世紀半の間に,それぞれの時代の技術革新を反映し,有機化学の発展とともに絶えず進歩を続けてきたが,そのなかでとりわけ時代を画する二つの大きな進歩がみられた。リービヒとデュマの時代は分析用試料の量として,マクロ的量(0.3~0.9g)を取り扱う元素分析法であったが,1910年ころ精密な微量化学てんびん(天秤)(0.000002gまで正確に測れる)が完成してから,試料量も数mg(0.003~0.005g)で分析できる微量分析法がオーストリアのF.プレーグルにより1911年から13年にかけて完成された。この微量分析法により,化合物によってはほんの微量しか入手できない貴重な有機物質の分析にも適用可能となった。…
…1904年ドイツのF.W.オストワルトやE.フィッシャーのもとで化学を学んでグラーツに戻り,タンパク質や胆汁酸を研究した。少量の試料しか得られないこれらの有機化合物を分析するために微量分析法を創始,微量てんびんその他の装置をくふうして,数mgの試料から炭素,水素,窒素を正確に定量する方法を12年までに確立した。その後いっそうの改良を重ねてこれを完成し,微量天然物の化学的研究の基礎を築いた。…
※「微量分析」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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