蛍光(読み)ケイコウ(英語表記)fluorescence

翻訳|fluorescence

デジタル大辞泉 「蛍光」の意味・読み・例文・類語

けい‐こう〔‐クワウ〕【蛍光】

蛍の尾部から発する光。ほたる火。
ルミネセンスの一種。光あるいはX線陰極線その他の放射線を当てられた物質から発する光あるいは放射線。当てるのをやめるとただちに消える。

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精選版 日本国語大辞典 「蛍光」の意味・読み・例文・類語

けい‐こう‥クヮウ【蛍光】

  1. 〘 名詞 〙
  2. ホタルが尾部から発するひかり蛍火(ほたるび)。〔日葡辞書(1603‐04)〕
  3. ある物質に光や放射線などを照射した時に起こる発光(ルミネセンス)のうち、照射をやめるとただちに発光が消失するものをいう。発熱反射による光とは異なる。陰極線、電場などの刺激によっても起こる。〔鉱物字彙(1890)〕

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「蛍光」の意味・わかりやすい解説

蛍光
けいこう
fluorescence

物質に光を当てたとき、その物質から発する光をいう。当てた光を取り除くと、ただちに発光が止まるのが蛍光で、発光がその後も続くのがリン光である。

 物質に光が当たると、物質内の化合物は、基底状態エネルギー的に低い状態)から励起状態(エネルギー的に高い状態)になる。励起状態は不安定で、外部からのエネルギーが加わらなくなると基底状態に戻ろうとする。基底状態から励起状態に移るとき、その物質は光を吸収し、励起状態から基底状態に戻るとき発光する。励起状態にはスピン波動関数の性質により、スピンが対になっている一重項状態と、スピンが向きをかえた三重項状態がある。励起状態から基底状態に戻るとき、一重項状態から直接基底状態に戻るのが蛍光で、一重項状態からいったん三重項状態に立ち戻り、その後に基底状態に戻るのがリン光である。蛍光の寿命は10-9秒と短く、リン光は10-6秒で約1000倍長い。蛍光を発する物質を蛍光体という。しかし、一般に物質は光を受けると励起状態に遷移し、同時に基底状態に戻ろうと、受けた光と同じ波長の光を発光している。発光している光がホタルの光のような色である場合を蛍光といっているのである。

 蛍光の波長は物質によって異なるので、物質の同定にも利用されている。一般に気体では輝線スペクトル、液体では帯スペクトル、固体では連続スペクトルとなる。固体から発生する蛍光スペクトルは今日半導体として活用されている。

[下沢 隆]

『R・S・ベッカー著、神田慶也訳『けい光とりん光』(1971・東京化学同人)』『M・ボル、J・ドゥルニョン著、稲村耕雄・中原勝儼訳『色彩の秘密』(白水社・文庫クセジュ)』


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百科事典マイペディア 「蛍光」の意味・わかりやすい解説

蛍光【けいこう】

ある種の物質(蛍光体)が光の刺激を受けて発光すること。光の照射が終わると直ちに消滅する場合をいい,かなり長く(数秒)発光が続く場合は燐光(りんこう)という。蛍光は吸収した光エネルギーによって物質内の電子が励起状態に上り,直ちにもとの基底状態に戻るとき放出されるもので,気体と液体に多くみられ,気体では線スペクトル,液体では複雑な帯スペクトル,固体では狭い波長範囲の連続スペクトルを示す。燐光は励起された電子がいったん準安定な中間準位に移り,それから基底状態に戻るとき放出されるもので,固体,特に結晶欠陥をもつイオン結晶に多く現れる。蛍光の継続時間は温度によってあまり変わらないが,燐光では温度が上がると減少する。それらの波長に関しストークスの法則が成り立つ。広義にはX線・放射線・陰極線等の刺激による発光も含む。蛍光体として広範囲に利用されるほか,蛍光分析,蛍光顕微鏡等にも応用される。→ルミネセンス
→関連項目蛍光顕微鏡赤外線

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化学辞典 第2版 「蛍光」の解説

蛍光
ケイコウ
fluorescence

ルミネセンスと同義に用いることもあるが,りん光と対照して用いる場合は,励起に瞬間的に追随して発光し,強度がいちじるしい温度依存性をもたない発光部分をいう.瞬間的な立ち上がりと減衰を示すといっても,実際は,10-7 s 以下程度であって,物質によってはもっと長いものもある.ただし,時間的変化は必ず指数関数的である.π電子系の有機蛍光体の場合は,励起一重項状態から基底状態への許容遷移が蛍光とよばれ,三重項状態からの遷移がりん光とよばれる.前者の減衰時定数は 10-8 s 以下が多く,後者では2けた以上大きい.

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改訂新版 世界大百科事典 「蛍光」の意味・わかりやすい解説

蛍光 (けいこう)
fluorescence

励起状態にある物質が基底状態へもどる際に,電子遷移に伴って放出される光。ルミネセンスと同義に用いられることもあり,また,励起が終わると直ちに発光が止まるものを蛍光と呼び,しばらくの間発光が持続するリン光と区別することもあるが,現在では発光機構で区別されることも多い。
ルミネセンス
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栄養・生化学辞典 「蛍光」の解説

蛍光

 光線,紫外線,X線,電子線などを吸収した物質が光を放出すること.光で励起される場合,一般には吸収する光より放出する光の波長の方が長い.発する光を利用して定量分析や定性分析をする.

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世界大百科事典(旧版)内の蛍光の言及

【鉱物】より

…(6)圧電気 圧力(衝撃)を加えた場合,結晶の両端に異種静電気の帯電がみられる圧電性(圧電気)を示すものもある。(7)ルミネセンス 蛍石のように鉱物の一部には,光,熱,電子線などのエネルギーを与えた場合,これを吸収してその鉱物特有の波長の光を発生する特性(ルミネセンス)をもつものがあり,外部よりエネルギーを受けている間のみ発光する場合を蛍光,その後もしばらく発光が持続する場合をリン光と呼ぶ。約200種の鉱物は紫外線の照射により蛍光またはリン光を発生するため,鉱物の鑑定,特別の鉱石の探鉱などに利用されている。…

【リン光(燐光)】より

…物質をなんらかの方法で励起し,その励起を中止した後に長時間にわたって発光する場合,これをリン光という。蛍光が10-9秒程度の平均寿命であるのに対して,リン光は数秒に達することもある。ただし,このような区別は明確なものではなく,発光の機構によって定義することも多い。…

※「蛍光」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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