原発性腹膜腫瘍

内科学 第10版 「原発性腹膜腫瘍」の解説

原発性腹膜腫瘍(腹膜腫瘍)

(1)原発性腹膜腫瘍
概念
 頻度はまれだが腹膜中皮腫,腹膜漿液性乳頭状癌などがある.ここでは腹膜中皮腫について概説する.中皮腫とは胸膜,腹膜や心外膜など体腔を覆う漿膜から発生する腫瘍である.漿膜表面は単層の中皮細胞からなり,その裏面は結合組織で裏打ちされているが,腫瘍もこの中皮と間葉系の二相性を有している.中皮腫全体の約20%が腹膜原発であり,胸膜についで多い.中年の男性に好発し,石綿アスベスト)を取り扱う職業の者に多くみられる.高リスク群では生涯の発病率は10%といわれており,アスベスト暴露から約30年後に発病するとされる.悪性中皮腫は上皮成分の優勢な上皮型と間葉成分の多い線維型とに分けられるが,頻度の高い上皮型ではヒアルロン酸を多量に分泌し粘稠な腹水が貯留する.
臨床症状
 早期では症状はほとんどなく腫瘍の増大に伴って徐々に症状が出現する.便通異常,腫瘤触知,腹部膨満感,腹痛などから,悪化すると腸管の通過障害,排便痛,食欲低下,体重減少などが出現する.各腹腔内臓器の被膜への浸潤をきたすが遠隔転移は少ない.
診断
 診断には腹水の検査が有用である.その性状は滲出性,淡血性で粘稠度が高いことが多い.腹水中のヒアルロン酸,サイトケラチン5の上昇を多くに認めるが,それのみではほかの悪性腫瘍との鑑別は難しい.細胞診を行うにはある程度の細胞数が必要である.腹腔鏡は画像的にも生検のうえでも有用.腫瘍の局在診断には超音波検査,CT,MRIなどの画像も有用であり,粘稠な腹水や板状の腫瘤が描出される.また,Gaシンチグラフィでは腫瘤部に取り込みを認め,腫瘍の広がりを診断するのに有用である.血液検査では特異的なものはないが血清LDHの上昇,腫瘍マーカーではTPA,CEA,CA125などが陽性となることがある.
治療
 治療は可能な場合は外科的切除を試みるが,手術不能例が多く,また手術可能例でも完全な腫瘍切除は困難である.抗癌薬の腹腔内投与,全身投与と放射線療法を組み合わせて行うが,一時的な効果にとどまり,確立した方法はない.
予後
 悪性腹膜中皮腫では予後はきわめて不良で2年生存率は20%以下とされる.[藤沢聡郎・松橋信行]
■文献
Debrock G, Vanhentenrijk V, et al: A phase II trial with rosiglitazone in liposarcoma patients. Br J Cancer, 89: 1409-1412, 2003.
Saab S, Hernandez JC, et al: Oral antibiotic prophylaxis reduces spontaneous bacterial peritonitis occurrence and improves short-term survival in cirrhosis: a meta-analysis. Am J Gastroenterol, 104: 993, 2009.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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