翻訳|asbestos
繊維状をなす角閃(かくせん)石の一種および蛇紋(じゃもん)石鉱物に対する一般的な名称。「せきめん」とも、アスベストともいう。もともとは角閃石石綿に対してのみ使われていたが、現在ではもっと広く使われていて、石綿の全生産量の95%以上が蛇紋石石綿である。
石綿の特徴は、補強剤として強く、化学変化をおこさない、これを混入した物質が不燃性を有する、という諸性質をもつことである。繊維の長いものは糸または布になる。その際、補助的に綿、ガラス、毛、銅などの繊維を入れることもある。とくに、ブレーキライニング(ブレーキの裏張り)、パッキング、電気絶縁物、保護服などには良質の繊維が必要である。短い繊維のものは、天井、壁、床などの板材に混入されたり、アスファルト、プラスチック、塗料、グリースなどの充填(じゅうてん)材をつくるのに使用されてきた。しかし、これだけ便利な材料であるが、空気中にただよう微細な石綿繊維が人間の健康にかなり有害であることがわかってきたため、多くの国ではその使用が禁止されている。石綿の産出は減少傾向にあるが、ロシア連邦がもっとも多く、カナダがそれに次ぎ、この2国あわせて世界の約60%に達する。ほかにブラジル、南アフリカ共和国、中国、ジンバブエなどがおもな産地である。日本では以前北海道で採掘されていたが、現在では休止されている。
蛇紋石石綿はクリノクリソタイル(繊維蛇紋石)という鉱物で、蛇紋岩中に脈をなして産する。その際、繊維の伸びの方向はかならず脈と直交している。角閃石石綿は鉱物学的にみて5種類が知られる。アモサイトの取引名があるものは、カミントン閃石‐グニュネル閃石系列、青色石綿(クロシドライト)とよばれるものはリーベック閃石である。ほかに少量ではあるが、透閃石、緑閃石、直閃石の石綿がある。
[松原 聰]
『環境庁大気保全局企画課監修『石綿・ゼオライトのすべて』(1987・日本環境衛生センター)』▽『アメリカ合衆国労働省労働安全衛生局編、車谷典男・熊谷信二・天明佳臣訳編『アスベストの人体への影響――リスクアセスメントと疫学的知見』(1990・中央洋書出版部)』▽『森永謙二編『職業性石綿ばく露と石綿関連疾患――基礎知識と労災補償』(2002・三信図書)』
アスベストともいう.柔軟で強靭な繊維質の鉱物.狭義には,蛇紋石系の温石綿であるが,工業的には,各種の繊維状ケイ酸塩鉱物を総称して石綿とよび,その大部分は角せん石質で,次の4種類に分類できる.温石綿H2Mg3Si2O3,青石綿NaFe(SiO3)2・FeSiO3,角せん石綿Ca(MgFe)3(SiO3)4,直せん石綿(Fe,Mg)SiO3.このうち,青石綿で鉄分の少ないものをアモサイトという.また,水熱反応あるいは溶融法で合成される合成石綿もある.カナダのケベック地方に産出する温石綿はもっとも有名で,性質もすぐれている.石綿は,1本の直径が0.01~1 μm であり,それがより合わさって0.5~1 mm の細い繊維となる.耐熱性,耐酸・耐アルカリ性,抗張性,熱および電気絶縁性などの性質を備えているために広い用途があり,1980年代までは日本には毎年30万t 程度輸入され,良質なものは糸あるいはテープ,布などの紡織品となり,防火材,耐火保温材,電解用融膜,高温用パッキングなどに使用された.低級なものはセメントと混合して各種の石綿セメント製品となった.また,合成樹脂またはゴムに混入して,ブレーキライニングあるいはクラッチフェーシングとして利用されていた.石綿は,1988年になって国内で健康障害の問題があることが顕在化した.石綿の吸入と肺がん・中皮腫の発生率との関係が指摘され,2005年に石綿障害予防規則が施行され,原則的に製造中止になっている.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
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…不燃材として古くから利用されている天然の無機繊維状鉱物の総称で,石綿(いしわた∥せきめん)とも呼ぶ。蛇紋石族または角セン石族の鉱物のうち,繊維状にほぐすことのできるものをいい,蛇紋石族の一種であるクリソタイルchrysotileは温石綿(おんじやくめん)とも呼ばれる。…
…塵肺(じんぱい)の一種。石綿肺ともいう。石綿(アスベスト)は繊維状のケイ酸塩鉱物の総称で,ひろく工業原料として利用されているが,近年,造船,建設,自動車ブレーキライニングなど石綿使用分野が急速に増加し,職業的にあるいは非職業的に,石綿曝露(ばくろ)の機会が増加してきている。…
…不燃材として古くから利用されている天然の無機繊維状鉱物の総称で,石綿(いしわた∥せきめん)とも呼ぶ。蛇紋石族または角セン石族の鉱物のうち,繊維状にほぐすことのできるものをいい,蛇紋石族の一種であるクリソタイルchrysotileは温石綿(おんじやくめん)とも呼ばれる。…
※「石綿」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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