口惜(読み)くちおしい

精選版 日本国語大辞典 「口惜」の意味・読み・例文・類語

くち‐おし・い ‥をしい【口惜】

〘形口〙 くちし 〘形シク〙
[一] 思う事ができなかったり、思うようにいかなかったり、または、大切なものを失ったりして、失望、落胆した気持を表わす。がっかりだ。残念だ。いまいましい。
※竹取(9C末‐10C初)「許さぬ迎へまうで来て、とりゐてまかりぬれば、口おしく悲しき事」
※枕(10C終)九八「くちをしきもの〈略〉呼びにやりたる人の来ぬ、いとくちをし」
※阿部一族(1913)〈森鴎外〉「それに疾うにする筈の、殉死をせずにゐた人間として極印を打たれたのは、かへすがへすも口惜(クチヲ)しい」
[二] 対象が、期待はずれ、不十分で、満足できないさまである。
① つまらない。くだらない。取柄がない。情けない。遺憾だ。
源氏(1001‐14頃)若菜下「人の有様の、とりどりにくちおしくはあらぬを」
徒然草(1331頃)一「時にあひ、したり顔なるも、みづからはいみじと思ふらめど、いとくちをし」
官位・身分が低くて言うに足りない。
※宇津保(970‐999頃)俊蔭「かくゆゆしきさまを、見そめ給つらむ人の、なにとかおぼすべき。くちおしき品に思ひ朽し給ふとも」
※源氏(1001‐14頃)乙女「男は、くちおしき際の人だに、心を高うこそ、つかふなれ」
[語誌](1)八代集には見えないが、平安時代の仮名文学以降見られる語。近世になると、類義語「くやし」と意味が接近し、やがて、「くやし(い)」の方が広く用いられるようになった。
(2)語源は、「朽ち」ることを「惜し」むとする説があるが、中世以降「口惜」をあてる例が多い。→「くやしい(悔)」の語誌。
くちおし‐が・る
〘他ラ五(四)〙
くちおし‐げ
〘形動〙
くちおし‐さ
〘名〙

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報