日本大百科全書(ニッポニカ) 「吏読文字」の意味・わかりやすい解説
吏読文字
りとうもじ
吏吐、吏道、吏書ともいう。新羅(しらぎ)時代に成立した漢字による朝鮮語の表記法で、漢字を朝鮮語のシンタックスにより配列し、助詞、助動詞などの文法要素を漢字の音・訓を借りて表したもの。日本の「宣命体(せんみょうたい)」に似ている。新羅時代の吏読文は瑞鳳塚(ずいほうづか)銀合う(451推定)の器物銘、「南山新城碑」(591)などの金石文や正倉院所蔵の「新羅(しらぎ)帳籍」がある。なお、薛聡(せっそう)が吏読をつくったとする伝説は、その発生が薛聡以前であるので信じがたい。高麗(こうらい)時代・李(り)朝時代を通じて、吏読は主として胥吏(しょり)たちが公文書や契約文書などを書く場合に用いられた。18世紀なかばに胥吏用の吏読文の手引書として『儒胥必知(じゅしょひっち)』が刊行されており、その巻末に吏読のハングル読みが付されている。一方、訓民正音創製以前に、吏読は漢文で書かれた実務書の翻訳にも使用された。『大明律(だいみんりつ)直解』(1395)と『養蠶経験(ようさんけいけん)撮要』(1415)がそれである。
吏読に類似した表記法に吐(と)または口訣(こうけつ)とよばれるものがある。これは漢文に文法的要素を各文節ごとに書き添えたもので、つまり漢文を読む場合の送り仮名にあたる。吐としては漢字の正字体のほか略体も多く用いた。略体の吐のなかには片仮名と同形のもの、同音同形のものがある。
[梅田博之]