朝鮮で国字ハングルの創案(1443)以前に発達した漢字による朝鮮語の表記法のこと。吏道,吏吐,吏書などとも書く。広義には,漢字の音や訓を利用して行った朝鮮語表記の総称としても用いられ,三国時代の固有名詞や官職名の表記を含めていうこともあるが,狭義では,郷札(きようさつ),口訣(こうけつ)(後述)と区別して,朝鮮語の構文に従って書き下した一種の変体漢文で,漢字語に添加する朝鮮語を書き表したものをいう。
解読にまだ問題のあるものもあるが,たとえば次の例の太字部分のように,助辞や用言の活用形を表記したものが主であり,名詞,副詞なども一部含まれる(カッコ内は当該部分の音を示す)。〈凡侍朝及侍衛官員亦(-i)顧問教是去等(-isi・gə・dn)各職次以(-ro)進叱(nas・drə)回合為白乎矣(-hɐ・sɐrb・o・dɐi)先後失行為在乙良(-hɐ・gyəən・r・an)罰俸禄半月(凡そ朝廷に仕えるもの及び護衛の官員が御下問せられたならば,それぞれ職次(の高下)によって進み回答申し上げるところ,先後(を)誤って行ったならば罰(は)俸禄半月)〉(《大明律直解》)。
新羅時代の金石文に初期の姿がみえ,高麗時代の金石文などで発達した形となり,李朝に受けつがれた。国字創案の前後には漢文の翻訳に用いたこともあるが,主に下級官吏の公用文や契約文の文体として19世紀末まで用いられた。漢字の用法と読みには伝統的な型があって,古代の漢字音や訓を反映するものがまじっているので,これらを見分けることによって古代朝鮮語の重要な資料となる。
郷札は新羅時代に郷歌(きようか)の記録に用いられた漢字による表記をいい,全文が古代の朝鮮語であるが,原則的には名詞,動詞など意味部は訓表記,文法形態部は音表記と考えられる。また,口訣は吐ともいい,漢文読解の補助として語句の下に付記する形態部をさすが,漢字やその略体字が用いられ,のちにはおもにハングルが用いられるようになった。これらにみられる漢字の用法には共通のものがあり,漢文訓読の発達・変遷との関連が考えられる。その源流は日本上代の漢字使用の原型であったと考えられるが,最近高麗末期の漢文訓読資料の発見により漢文読法の観点からも新たな注目をあびている。
執筆者:大江 孝男
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…朝鮮で国字ハングルの創案(1443)以前に発達した漢字による朝鮮語の表記法のこと。吏道,吏吐,吏書などとも書く。広義には,漢字の音や訓を利用して行った朝鮮語表記の総称としても用いられ,三国時代の固有名詞や官職名の表記を含めていうこともあるが,狭義では,郷札(きようさつ),口訣(こうけつ)(後述)と区別して,朝鮮語の構文に従って書き下した一種の変体漢文で,漢字語に添加する朝鮮語を書き表したものをいう。…
…その趣は日本の宣命(せんみよう)などに類する。この慣習は文書の中に長い間踏襲され,これを吏読(りとう)と称する。 吏読はハングル発明後にも李朝末期まで用いられた。…
…名僧元暁の子。儒学者として強首にやや遅れて活躍,新羅語を漢字で表す方法(後世の吏読(りと))を集成し,漢文を新羅語で読み解く方法(吐(と))を考案して経典を講釈するなど,中国学芸の摂取と儒学の発展に寄与した。また,官職は翰林をへて王の政治顧問役をにない,神文王(在位681‐692)に道徳規範の順守を説いた《諷王書(花王戒)》が伝わる。…
※「吏読」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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