吏読(読み)リト

デジタル大辞泉 「吏読」の意味・読み・例文・類語

り‐と【吏読/吏道/吏吐】

古代朝鮮で、漢字の音・訓を借りて、朝鮮語助詞助動詞などを書き表すのに用いた表記法新羅しらぎ時代から行われ、ハングルが制定されたのちは官吏の間でだけ用いられたので、この名がある。りとう。

り‐とう【吏読】

りと(吏読)

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精選版 日本国語大辞典 「吏読」の意味・読み・例文・類語

り‐と【吏読・吏道・吏吐】

  1. 〘 名詞 〙 ( 官署の文券・役所向けの書類の意 ) 古代朝鮮で、漢文文節の区切りに漢字の音・訓を借りて助詞・助動詞を表わした表記法。亦(を以て、で)、為遣(して)など。日本の宣命(せんみょう)書きに類似する。りとう。
    1. [初出の実例]「全く朝鮮の吏道諺文とす」(出典:文芸類纂(1878)〈榊原芳野編〉一)

り‐とう【吏読】

  1. 〘 名詞 〙りと(吏読)

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改訂新版 世界大百科事典 「吏読」の意味・わかりやすい解説

吏読 (りとう)

朝鮮で国字ハングル創案(1443)以前に発達した漢字による朝鮮語の表記法のこと。吏道吏吐,吏書などとも書く。広義には,漢字の音や訓を利用して行った朝鮮語表記の総称としても用いられ,三国時代固有名詞や官職名の表記を含めていうこともあるが,狭義では,郷札(きようさつ),口訣(こうけつ)(後述)と区別して,朝鮮語の構文に従って書き下した一種の変体漢文で,漢字語に添加する朝鮮語を書き表したものをいう。

 解読にまだ問題のあるものもあるが,たとえば次の例の太字部分のように,助辞用言の活用形を表記したものが主であり,名詞副詞なども一部含まれる(カッコ内は当該部分の音を示す)。〈凡侍朝及侍衛官員亦(-i)顧問教是去等(-isi・gə・dn)各職次以(-ro)進叱(nas・drə)回合為白乎矣(-hɐ・sɐrb・o・dɐi)先後失行為在乙良(-hɐ・gyəən・r・an)罰俸禄半月(凡そ朝廷に仕えるもの及び護衛の官員が御下問せられたならば,それぞれ職次(の高下)によって進み回答申し上げるところ,先後(を)誤って行ったならば罰(は)俸禄半月)〉(《大明律直解》)。

 新羅時代の金石文に初期の姿がみえ,高麗時代の金石文などで発達した形となり,李朝に受けつがれた。国字創案の前後には漢文の翻訳に用いたこともあるが,主に下級官吏公用文や契約文の文体として19世紀末まで用いられた。漢字の用法と読みには伝統的な型があって,古代の漢字音や訓を反映するものがまじっているので,これらを見分けることによって古代朝鮮語の重要な資料となる。

 郷札は新羅時代に郷歌(きようか)の記録に用いられた漢字による表記をいい,全文が古代の朝鮮語であるが,原則的には名詞,動詞など意味部は訓表記,文法形態部は音表記と考えられる。また,口訣は吐ともいい,漢文読解の補助として語句の下に付記する形態部をさすが,漢字やその略体字が用いられ,のちにはおもにハングルが用いられるようになった。これらにみられる漢字の用法には共通のものがあり,漢文訓読の発達・変遷との関連が考えられる。その源流は日本上代の漢字使用の原型であったと考えられるが,最近高麗末期の漢文訓読資料の発見により漢文読法の観点からも新たな注目をあびている。
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百科事典マイペディア 「吏読」の意味・わかりやすい解説

吏読【りと】

ハングル制定以前の古代朝鮮で,朝鮮語漢字で記すために発案された表記法。〈りとう〉とも読まれ,〈吏吐〉〈吏道〉とも書かれる。広義には,漢文を膠着語である朝鮮語で訓読する場合に助詞・助動詞等を表す〈吐〉の一種をいい,日本の宣命祝詞の送り字に似る。狭義には,〈吏〉が〈吏胥〉を表すことから,公文書,契約書等に用いられた〈吐〉をいう。新羅の薛聰が作ったという伝説があり,この時代の金石文に見られるものも〈吏読〉と通称される。助詞〈ヲ〉を意味する〈乙〉のように漢字の字音を利用した用法と,〈シテ〉を意味する〈為遣〉のように訓を借りた用法の2様がある。

吏読【りとう】

吏読(りと)

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「吏読」の意味・わかりやすい解説

吏読
りとう

朝鮮において,おもに助詞・助動詞など,送り仮名に相当する部分の表記に用いられる漢字の特殊な使用法をさす。「吏吐」「吏道」とも書く。日本における宣命書きと同趣のもので,まだみずからの文字をもたなかった古代朝鮮において,すべて漢字で表記しようとした結果生れたもの。三国時代の金石文に始り,19世紀の末まで用いられた。音を利用するものと訓を利用するものとがあり,いまだ読み方が解明されていないものもある。吏読などの「吏」は公文書などに用いられたところからきた名称。また吏吐の「吐」は送り仮名の意。吐には片仮名に類似する漢字の略体がしばしば用いられた。このような漢字の用法は上代日本語の表記にも影響を与えたと考えられる。

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世界大百科事典(旧版)内の吏読の言及

【吏読】より

…朝鮮で国字ハングルの創案(1443)以前に発達した漢字による朝鮮語の表記法のこと。吏道,吏吐,吏書などとも書く。広義には,漢字の音や訓を利用して行った朝鮮語表記の総称としても用いられ,三国時代の固有名詞や官職名の表記を含めていうこともあるが,狭義では,郷札(きようさつ),口訣(こうけつ)(後述)と区別して,朝鮮語の構文に従って書き下した一種の変体漢文で,漢字語に添加する朝鮮語を書き表したものをいう。…

【漢字】より

…その趣は日本の宣命(せんみよう)などに類する。この慣習は文書の中に長い間踏襲され,これを吏読(りとう)と称する。 吏読はハングル発明後にも李朝末期まで用いられた。…

【薛聡】より

…名僧元暁の子。儒学者として強首にやや遅れて活躍,新羅語を漢字で表す方法(後世の吏読(りと))を集成し,漢文を新羅語で読み解く方法(吐(と))を考案して経典を講釈するなど,中国学芸の摂取と儒学の発展に寄与した。また,官職は翰林をへて王の政治顧問役をにない,神文王(在位681‐692)に道徳規範の順守を説いた《諷王書(花王戒)》が伝わる。…

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