国民純福祉(読み)こくみんじゅんふくし

改訂新版 世界大百科事典 「国民純福祉」の意味・わかりやすい解説

国民純福祉 (こくみんじゅんふくし)

国民所得概念は,一国の経済活動の規模を数量的に表すと同時に,ひいては国民福祉の水準を測定するものと考えられてきた。しかし経済発展にともなって社会構造が複雑化し,国民所得の大きいことがただちに国民福祉の大きいことにつながらないという事情が生じた。両者乖離(かいり)を示す要因として,(1)公害・交通事故などにみられるように,環境の悪化が福祉を低下させている,(2)軍備・警察・一般行政費・公害防除費・通勤費などは国民所得に計上されているが,これらは福祉の低下に対する防御的相殺要因であって,福祉を高めない,(3)余暇,主婦の家事労働などは市場外の活動として扱われ,福祉の増大に計上されていない,といった点が指摘できる。国民純福祉net national welfare(NNW)の概念は,公害問題の激化といった状況下,このような考え方に立って,国民所得の概念から出発して,国民所得の中に含まれている(2)のような要因を差し引き,国民所得と無関係に発生している(1)のような要因を貨幣的に評価して差し引き,国民所得に含まれていない(3)のような要因を貨幣的に評価して加算するという方法をとる。さらに国民所得に含まれる投資も直接福祉に関係しないので除かれ,代りに生活関連社会資本や個人耐久資本財から生ずるサービスが貨幣的に評価されて加算される。

 NNWは日本経済審議会が1971年NNW開発委員会(1971-73)を設けて試算したものであるが,アメリカでも同様な概念がMEWmeasure of economic welfare)という用語で呼ばれ,計測されている。いずれも国民福祉の貨幣的指標を求めようとする試みであるが,試案の域を出ていない。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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